2013~18年に東日本学生リーグ戦で6年連続優勝を達成し、学生レスリング界に一時代を築いた山梨学院大。そのパワーで世界王者(高橋侑希、乙黒拓斗)を生み、2021年東京オリンピックに3選手(高橋侑希、乙黒拓斗、乙黒圭佑)を出場させ、乙黒拓が優勝という輝かしい栄光へとつなげた。
そこで一息ついたわけではないだろうが、リーグ戦はコロナ禍をはさんで2大会連続で日体大に優勝を許してしまった。だが、2019年大会は日体大に土をつけており(拓大を含めて3すくみとなり、内容差で3位)、昨年は日体大との試合に1勝差で敗れての2位だった。
大きく引き離されたわけではなく、王座奪還を目指す力は十分にある。小幡邦彦監督は「全試合、僅差の勝負となるでしょう」と予想し、選手には紙一重を破る粘りを要求。「自分が負けても、だれかが勝ってくれるだろう、ではなく、チームスコア7-0で勝つつもりで臨むように伝えています」と気合を入れる。
予想されるメンバーは下記の通り。
57kg級:小野正之助=2022年国体優勝
61kg級:森田魁人=2022年全日本大学選手権2位
65kg級:荻野海志=2022年全日本大学選手権優勝/2023年JOC杯U20優勝
70kg級:青柳善の輔=2022年全日本大学選手権優勝/2023年アジア選手権3位
74kg級:佐藤匡記=2022年全日本大学選手権3位/2023年U23世界予選79kg級優勝
86kg級:五十嵐文彌=2022年全日本大学選手権優勝/2023年JOC杯U20優勝
125kg級:ソヴィット・アビレイ=2022年全日本大学選手権2位
昨年の大学王者3選手(荻野海志、青柳善の輔、五十嵐文彌)が残っているのは強み。ただ、この中で、日体大戦で確実に白星が見込めるのは、主将の青柳だけかもしれない。
荻野は、全日本大学選手権は決勝で清岡幸大郎(日体大)が負傷棄権しての優勝。清岡は今年3月にダン・コロフ-ニコラ・ペトロフ国際大会(ブルガリア)で優勝するなど国際舞台でも台頭している選手で、簡単に勝てる相手ではない。五十嵐は、全日本大学選手権は髙橋夢大(日体大)を破って優勝だったが、その前に昨年のリーグ戦では敗れ、12月の全日本選手権でもリベンジされており、髙橋に確実に勝つだけの実力には至っていない。
それでも、ともに先月のJOC杯ジュニアオリンピックU20を制しており、伸び盛りの選手。試合順がどうなるか分からないが、チームの波に乗ることで勝利を引き寄せることは十分にありうる。小幡監督は「(JOC杯で)冬の強化の成果がしっかり出ていると思います」と話し、両選手の成長に期待する。
57kg級の小野正之助は、昨年の全日本大学選手権では体重調整に失敗してしまって上位進出ならなかったが、リーグ戦では1年生にして前年の学生王者を破り、国体ではアジア選手権3位の選手を破るなど実力は折り紙付き。
この階級は、日体大も大学王者(弓矢健人)が残り、スーパールーキーの西内悠人(高知・高知南高卒=3月の「ザグレブ・オープン」でU23世界王者を破って銀メダル)が加入して層が厚くなっているが、小野の体重調整がうまくいけば、どちらが出て来ても「1勝」は期待できる。
同級のルーキー、勝目大翔(静岡・飛龍高卒=インターハイ2位)がJOC杯で大学王者の弓矢を破る実力を見せたのも強みだ。併用によって小野の体力を温存し、日体大戦に満を持して臨ませる作戦がとれる。
125kg級に起用されるソヴィット・アビレイは、昨年のリーグ戦と全日本大学選手権で敗れている伊藤飛未来(現自衛隊)が抜け、学生間のトップにいる状況。ここも日体大戦では白星が期待できる。
61kg級の森田魁人と田南部魁星は、これまでの対戦成績では田南部が上回っているものの、闘う度に接戦。74kg級の佐藤匡記は、昨年の全日本大学選手権で高田煕に敗れたが、先月のU23世界選手権予選79kg級で勝つなど、一昨年に世界選手権に出場した実力は維持している。
小野、青柳、アビレイに、接戦が予想される4階級のうち最低1試合を勝つことは不可能ではない戦力。小幡監督は、昨年のリーグ戦と全日本大学選手権で日体大と優勝争いをした選手がほぼ残っている戦力は、経験値から見ても「頼もしい」と分析。わずかの差を破れなかった悔しさを、今年の大会でぶつけてくれることを望む。
リーグ戦という独特な雰囲気の中で持っている実力を出すには、経験が大きく作用する。昨年大会の日体大との決戦で、3勝3敗となってマットに立ったのが、今年主将を務める青柳。結果は、微妙な判定の連続による0-5で敗れ、勝敗が決まってしまった黒星となったが、「試合中の記憶がないんです」と振り返る。
JOC杯で優勝し、世界カデット(現U17)選手権出場の経験をもつ選手ですら、それほどまでの極度の緊張に襲われるのが、リーグ戦での“天下分け目の闘い”。その経験が、その後の全日本大学選手と全日本選手権での優勝につながったのは、言うまでもない。「去年の自分と違い、自信を持ってマットに上がれます。自分の1勝は絶対に必要」と語気を強める。
その青柳主将は「五十嵐は本当に強いです。負ける要素がないです」と、JOC杯を3試合圧勝で勝ち上がった大学王者の成長に信頼を置き、昨年のリーグ戦で敗れた髙橋夢大へのリベンジを期待。「(減量の大きい)小野と佐藤に体重調整をしっかりさせたい」と、選手のコンディションづくりに注意を払う。
小幡監督は、4年前にリーグ戦の優勝が途切れたのは残念だが、山梨学院大に行けば、それだけで「強くなれる」「リーグ戦優勝の喜びを味わえる」といった気持ちを持たれてしまった面があったと振り返る。常勝軍団に忍び込む心のすきを感じたそうで、指導する自分の心にも「何とかなるだろう、という気持ちがなかったとは言えない」と打ち明ける。
「負けてよかった、という面もあります」。挑む立場に戻ったことで、選手の目の色が6連覇する前の頃に戻っているという。4月27日から5月2日には、コロナ禍の間にはできなかった全日本合宿を山梨学院大で実施し、若手選手にも全日本トップ選手との練習を経験させられた。
強豪選手との練習で実力と意識を高めたあとは、コンディションづくりだ。昨年夏の全日本学生選手権はコロナに見舞われ、多くの選手が欠場を余儀なくされた苦い思いがある。収束しつつあるとはいえ、コロナとけがに十分に注意し、王座奪還に挑む。