(文=渋谷淳)
2021年世界選手権金メダリスト、女子53㎏級の藤波朱理(日体大)が圧倒的な強さを見せつけて3連覇を達成した。オリンピック3連覇の吉田沙保里の持つ公式戦119連勝の記録を塗り替え、122連勝をマークして世界選手権出場を決めた。
藤波が、あらためてその実力と勢いを見せつけた。まずは初戦となった2回戦(準々決勝)。2021年東京オリンピック金メダリストの志土地真優(ジェイテクト)にフォール勝ちして吉田の記録を更新、連勝を「120」に伸ばした。
「(志土地は)同じ三重県出身で小さいころからあこがれていた選手。東京オリンピックで真優さんが優勝してから、真優さんを超えたい、真優さんを倒したい、という思いが自分の中で大きなモチベーションの一つになりました」
目標とする存在をしっかり超えた翌日、決勝で見せたレスリングは勢いだけでなく、着実にレベルアップしている姿を見せつけた。対戦相手の清岡もえ(育英大)は55㎏級の全日本チャンピオンであり、オリンピック階級にあえて落として藤波に勝負を挑んできた選手。当然、藤波のことを徹底的に研究してマットに上がったはずだ。
藤波は「攻撃的な選手だと分かっていたので、自分も思い切って攻めていこうと思った」と振り返り、序盤からまったくすきを見せることなく、相手が警戒していたはずのタックルを決めて先制。リードを広げると、今度は前に出るだけでなく、相手の攻撃をいなしてカウンターを決めてポイントを重ねた。
タックル以外の攻撃、レスリングの幅を広げることを課題としている藤波は「カウンターも日ごろから練習しているので少しは出せたかなと思います」と控えめながら、父の俊一コーチは「今日は100点に近いくらいの内容。初戦の志土地選手との試合で、グラウンドからのポイントを重ねてのフォールというのはかなり成長したと思う。タックル以外の練習の中で、グラウンドの技を練習した部分がうまくいったんじゃないか」と目を細めた。
この日まで「この大会のことだけ考えていた」という藤波だが、勝利の瞬間に「世界選手権のことが頭に浮かんだ」と、その目はすでに9月にセルビア・ベオグラードで開催される世界選手権に向いている。本人が「まだまだ伸びしろがあると思っている」と語るように、伸び盛りの19歳は本番までの3ヶ月でも大いに成長が期待できるだろう。
今後はあらためて体力作り、スタミナ強化から始めて、継続して取り組んでいる組み手の対策をしていく予定。俊一コーチは「僕としてはグラウンドでの得点力アップができればと思っています」と課題を挙げた。
今や注目度が急上昇中だが、記録のことを問われると、「意識はない」と前置きしながら「自分のことや、レスリングをちょっとでも知ってもらえるきっかけになれば」と答え、注目されることには「それが自分のモチベーション」と言う姿は堂々たるもの。この年齢にして、いよいよ第一人者の貫禄すら漂ってきた。
オリンピック出場をかけた世界選手権は、昨年は直前に左足甲を痛めて棄権。連覇のチャンスを逃すという悔しい思いをした舞台。藤波は「(去年と)同じベオグラードというのは、なかなかないと思うので、リベンジする機会をいただいたと思ってしっかりがんばります」と雪辱を誓う。目標はもちろん優勝、オリンピック出場権獲得以外にない。