(文=布施鋼治)
2023年明治杯全日本選抜選手権最終日。男子フリースタイル61㎏級に“怪物”が現れた。シニアの大会には今回が初出場ながら、決勝で全日本選手権2位の藤田颯(早大)を6-2で破って初優勝を遂げた坂本輪(東京・自由ヶ丘学園高=17歳8ヶ月)だ。
「ホッとしています。一番下(若い)で優勝できたことがとてもうれしい」
男子高校生としては、2019年に男子フリースタイル79㎏級を制した髙橋夢大(当時京都・網野高=現日体大)に続く大会史上2人目の王者となった。
「最年少というか、一番下で優勝を狙っていくことは常に意識していました」
坂本を今大会の優勝に導く原動力となる大会もあった。8月にポーランドの首都ワルシャワで開催されるU20世界選手権だ。
「U20でも自分が一番年下だと思うので、上の選手を倒していかなければ先に進めない。通過点ではないけど、まずは明治杯でしっかり勝たないといけないと思いました」
初戦の吉村拓海(自衛隊)戦から坂本は勝負強さを感じさせた。
「体力と粘りのあるレスリングだったら、誰にも負けない。そう信じてやっていました」
接戦の末の逆転も、ある程度は計算済みだった。「自分の強みは、ポイントを取られてから後半で持ち味を出せること。年上の選手相手にポイントを取られるのは当たりまえ。それ以上にポイントを取る、という気持ちでやりました」
高校生と大学生の間には、テクニック以前に体力の差があるといわれている。対戦相手が社会人となればなおさら差を感じてもおかしくない。しかし大会前から坂本は特に差を意識することはなかったという。
「マットに上がったらみんな同じ選手。特に深く考えないようにしていました」
緊張感もさほど感じなかった。「少しはあったと思うけど、マットに上がってしまえば練習と同じと思いました」
高校の同期には、昨年の天皇杯全日本選手権・男子グレコローマン55kg級で初出場初優勝を遂げた金澤孝羽(こはく)がいる。男子グレコローマンで高校選手が優勝するのは全日本選手権史上初の快挙だった。
坂本は金澤が先に最年少の全日本チャンピオンになったことは「強く意識した」と語気を強めた。「孝羽とはキッズの頃からクラブチームでも一緒にやっているので、ライバル意識はあります」
現在高校3年生。来春には進学を控えるが、坂本は以前から希望していたという米国の大学進学も視野に入れている。全日本や世界チャンピオン・クラスの海外留学が実現すれば、1991年に17歳で世界チャンピオンに輝いた山本美憂以来となる。
坂本は全く新しい価値観で勝負するニュータイプのレスラーとなるか。