世界レスリング連盟(UWW)は11月15日、今年9月の世界選手権の男子グレコローマン87kg級決勝に重大な誤審があったとして、敗れたダビッド・ロソンツィ(ハンガリー)を、アリ・ジェンギズ(トルコ)とともに両者優勝としたことを発表した。
試合はジェンギズが8-7のスコアで終了した。しかし第2ピリオドの中盤、ロソンツィがカウンターでフォールの体勢に入り、レフェリーがそれを認めたにもかかわらず、マットチェアマンが合意しなかったシーンがあった。
専門家による徹底した分析の結果、UWW理事会は「審判のミスは議論の余地のないものである」との結論に達し、「公平性を保つために、この部門でロソンツィに2つ目の金メダルを授与することが必要。彼が2023年世界チャンピオンとしても宣言されることに異例の合意をした」とした。
ハンガリー協会は、ホームページで「重大な欠陥のある判定がなされたことを立証するため、UWWに訴えた。現在のルールでは、判定が後日に変わる規定が存在しないため、結果が変わる可能性はほとんどなかったが、それでも私たちはあらゆる手を尽くした」と記載。シラード・ネメス会長は「UWWは、フェアプレーの側面がより重要であると考えていた」とコメントした。
UWW理事会のメンバーであり、今回の判定変更に多大な貢献をしたピーター・バスチャ氏は「ルールでは、マット上で下された試合結果を変更することはできないので、勝敗を変えることは非常に困難でした。しかし、公正な判定は、間違いや責任を隠すことよりも重要です」とコメント。UWW理事会の全員一致での決定とのことで、「2013年(オリンピックからの除外危機)以来、ネナド・ラロビッチの体制の下で歩んできた長い闘いの成果です。レスリングが健全化の道を歩んだ証拠です」と、UWWの姿勢を評価した。
▼問題のシーンは6:45~7:40
1997年までは、「プロテスト」(書面抗議=抗議料は500スイスフラン、現在なら約85,000円)というルールがあり、試合のあと、開始から終了までのビデオをチェック。そのポイントの多寡によって勝敗が変わることが時たまあった。1995年世界選手権の男子フリースタイル62kg級決勝では、一度は和田貴広(現国士舘大監督)の手が上がりながら、ビデオチェックの結果、判定がくつがえった。
1998年以降は、マットサイドで撮影されている動画で判定を下すことになり、ドーピング違反で順位が剥奪されることはあっても、試合中のジャッジによって判定が変わったことはなかった。
2007年世界選手権の女子72kg級、浜口京子-スタンカ・ズラテバ(ブルガリア)戦では、ビデオチェックすることなしにズラテバのみにポイントを挙げた3人の審判員を、審判長が「明らかな誤審。1人がおかしいと訴えて協議を求めたにもかかわらず、無視したことは規定違反。100パーセント、ミステーク」として降格処分を下したが、勝敗はくつがえらなかった。