今年の元日に発生した能登半島地震の被災地にある石川・志賀クラブから、3選手が全国少年少女選抜選手権に出場。6年42kg級の木村海翔と女子4年39kg級の岩井咲花の2選手が3位に入賞する健闘を見せた。山下勝代表は「(出場してみて)被災地だから、と引っ込んでいては駄目だということが、あらためて分かりました。こうしたときにこそ、頑張る気持ちを出すことが大切なんだと思います」と前を向いた。
羽咋郡志賀町は、輪島市などに比べると被害の度合いは少なかったとはいえ、壊滅に近い地域もあり、平穏な生活を奪われた地域だ。水が出ずトイレにも不自由する状況。地震直後は練習など考えられもしない状況だったと言う。
だが、だからといって下を向いている雰囲気でもなかった。志賀高校の校長先生が「9日から授業を始めるぞ」と、いち早く日常を取り戻すべく号令をかけ、力強く立ち上がった。
生徒が練習することに制限はかけられなかったので、同クラブも参加できる選手を集めて比較的早くから再開。断水で風呂に入ったりシャワーを浴びたりすることができないので、多くの汗をかくことのない筋トレを中心にした練習からスタート。通常の練習ができるようになったのは1月の第3週くらい。町の断水は続いていたので、風呂を無料開放している「青年の家」まで山下代表が車で送って行って汗を流させる状況だったそうだ。
こうした状況にもかかわらず出場を決めた要因は、「この大会は前年の全国大会ベスト8以上の選手に出場資格がある。なかなか出られない」ということ。同代表は「経験を積ませるために出場する必要があると思った」と説明する。自身も、そして保護者も悩んでいた面もあったそうでが、選手のことを思って決めたという。
協力したのは、東洋大倶楽部。前日に上京した同クラブの練習を引き受け、しっかりと準備させてもらっての出陣となった。女子76kg級世界チャンピオンの鏡優翔ら同大学の選手も練習を手伝ってくれたほか、JOCエリートアカデミーの吉村祥子コーチも多くのスパーリングをやってくれた。レスリング界の横のつながりに感謝。
終わってみて、「やはり参加してよかったです」と振り返る。被害の状況次第では「スポーツをやっているときではない」という意見も出てきたかもしれないが、そうした声は聞こえてこなかった。周囲が日常を取り戻す姿勢を見せていたことも後押しした。
「選手の頑張りが、町の復興につながってくれればいいと思います」と山下代表。断水も解消されて少しずつ日常が戻ってきたそうで、子供たちの活気が地域の復活を進めてくれることだろう。