「バディスポーツ幼児園」と言えば、市民ランナーの星・川内優輝選手(2014年アジア大会マラソン銅メダル、最高タイムは2時間7分27秒)、サッカー日本代表の武藤嘉紀選手(ヴィッセル神戸)ほか数多くのJリーガー、ラグビートップリーグで活躍する須藤拓輝選手(元NTTコミュニケーションズ)など、現在日本で注目を集めているスポーツ選手を多く輩出。幼児期からのスポーツ教育に力を入れ、それが実っていると評価されている幼児園だ。
関東地方と大阪に点在する8つの幼児園には、数多くのスポーツクラブがある。唯一、マットを常備してレスリング教室を開講しているのが有明校(東京都江東区)。2018年に新日本プロレスの運営でスタートした「athletic camp LION」が、同幼児園に譲渡されて継続。そのときに現役選手兼監督だった荒木田進謙代表(青森・光星学院高~専大OB=全日本選手権7度優勝)が、引き続きキッズ選手の指導をして現在に至っている。
2月11日に東京・新宿コズミックセンターで行われた「少年少女選手権/新宿キッズトーナメント」に12選手が出場し、幼児1選手と中学1年生の2選手が優勝。2選手が3位の成績。荒木田代表は「奇数学年の選手が多く、(2学年一緒にやる大会では)ちょっと厳しかったですね」と振り返った。
だが、月齢差を考えて子供たちの成長を見守るのが、バディ幼児園の方針。川内優輝選手(前述)が幼児園の頃は、かけっこではいつもビリだったそうだ。3月生まれであり、4月生まれの子とは11ヶ月の月齢差。それを考慮して、先生も親もあたたかく見守ったと言う。この時期の子は、数ヶ月の月齢差でも、体力が違う。
同幼児園の鈴木威理事長は「順位やタイムしか見ていなかったら、いまの川内選手はなかったと思います。子どもの才能を見落とさないために意識すべきは、目先の順位やタイムに目を向けることではありません。そのスポーツを、子どもがどんな姿でやっているか、どんな表情でやっているかを見守ることが重要なのです」と振り返り(Number Web=2022年4月15日)、長い目で見てやることの重要性を訴える。そんな幼児園の運営するクラブだけに、目先の成績に一喜一憂することはあるまい。
荒木田代表は、教室を引き受けることになって6年近くが経ち、「やっと全国大会でそこそこ闘えるようになりました。去年、大久保晏が3年36kg級で男子に混ざって闘い2位になりました」と、結果を急がずに育て、保護者も盛り上がってきたことを強調する。「子供は素直です。自分が素直でなかったから、よけいそう感じます」と笑う。やる気が出たときは、とことんやるが、やりたくないときはやらない。大変なことも感じるが、そんなキッズ選手と一緒にレスリングをやるのが楽しそう。
前述の通り、目先の結果を求められているわけではない。バディ幼児園に通う子供だけでなく、より多くの子を集めて、体を動かす楽しさを教えるのが同教室の使命と考えている。
隣接する台場は観光名所で、昼間の人出は多いが、住民はそう多くない。近くにJRはなく、行きづらい場所。東京の西側(世田谷区や中央線沿線)や北側(埼玉県側)から選手が通うには厳しい。そのため、選手集めは地元の子が対象となる。幸い、東京オリンピックの選手村だった近くの晴海フラッグに5,000戸を超えるマンションの建設が進んでおり、最大で1万2,000人の人が住む予定。
同地域にレスリング教室は少ないだけに、逆にチャンスと言える材料だろう。現在の部員数は32人。幼児は、幼児園の部活動みたいな感じで授業のあとに1時間半の練習、小学生はそのあとの2時間。幼児園から小学校へ進むときに、サッカーやバスケットボールを選ぶ子供が少なくないので、「レスリングを選んでもらうようにすることが、自分の役目かな」と考えている。
「レスリング協会には、かなりお世話になりました」と荒木田代表。「レスリングの人口を増やすことで、恩返しにしたいです。いきなりオリンピック選手の育成、といった大きなことは考えず、レスリングを通じて『体を動かすことは楽しい』と思ってくれる選手を多くつくりたいです」と話す。
同代表は、2004年に最重量級の高校三冠王者になって将来を嘱望され、海外遠征は数知れず。2014年アジア大会(韓国)で銅メダルを獲得し、2015年世界選手権(米国)では8位に入賞。1-2で敗れたモンゴル選手との敗者復活戦に勝っていれば、リオデジャネイロ・オリンピック出場枠を手にできた。
だが、保護者に自分の実績を吹聴したことはない。「皆さん、何も知らないと思いますよ。レスリングに興味持っていた人は、いないみたいですし」と笑い、あくまでもレスリングの素晴らしさを前面に出して選手集めをする予定。
まだ全国チャンピオンが生まれていないので、今年はそれが目標。MTX GOLDKIDS(成國晶子代表)やワセダクラブ(鈴木啓仁代表)など、全国チャンピオンを輩出している教室が合同練習で協力してくれ、普及とともに強化も目指している。
クラブ名の「LION」とは、新日本プロレスのロゴにも使われている同社のシンボルマークの名称。同社の運営からは離れたが、クラブ名は引き継いだ。百獣の王ライオンの精神で、キッズ・レスリング界の王者を目指す-。