世界ベテランズ選手権優勝の実績もある西村盛正さん(南九州大レスリング部部長=日大卒)が、引退試合としてDivisionG(66歳以上の部)70kg級に出場。昨年に続く2連覇を達成して60年にわたる選手生活の有終の美を目指していたが、安田昭司さん(静岡・静岡クラブ)の速攻タックルを受けてしまい、こらえたものの、そのままフォール負け。試合時間は1分もなく終わってしまった。
「汗もかかず、何もできずに終わってしまった。引退試合としては、悔いが残ります」と残念そうな西村さん。予想もしていなかった出会い頭の交通事故、と言っては安田さんに失礼だが、開始早々の速攻タックルに面食らって、腹ばいになることもできなかったのは確か。ニアフォールを脱してしまえば、「ポイントを取り返す自信はあったが…」と話したものの、「両肩がマットについたら、終わりだよな」と受け入れざるをえない。
「(選手生活の)最後に最悪の試合をしてしまった。情けないですよ」。とはいえ、60年のレスリング人生が否定されるものではない。宮崎県にある南九州大にレスリング部を創設。50歳を前にした1995年には世界ベテランズ選手権に出場して優勝。部員達に“闘う監督”の姿を見せた。「その歳でも、学生と毎日練習していましたからね」と懐かしそう。
大学の校舎移転の影響でクラブは2010年に休部となったが、すばらしい道場をつくってもらい、後釜(竹田展大監督)を見つけて2020年に再出発。宮崎県はいつしかキッズ教室も盛んになり、大学までの一貫強化の体制もできつつある。高校の選手数は宮崎県が全国一。伊調馨らのオリンピアンも呼んで強化にも尽力。南九州地区のレスリングの普及と発展に貢献してきた(関連記事)。
それを指摘されると、「確かに、よくやったレスリング人生でしたね。あとは後進に夢を託したい」と話す。確かに、南九州大レスリング部の部長は75歳で区切りとなるが、顧問に名を連ねている三恵海運の総監督に今年から就任し、パリ・オリンピック出場が内定している日下尚(男子グレコローマン77kg級)らの選手を支援することが決まっている。今夏は、パリまで出向いて応援する予定。レスリングとのつながりが弱まるわけではない。
同時に、健康維持が最大の課題。最近、くも膜下出血で倒れ、膀胱(ぼうこう)がんが見つかるなど、病との闘いが続いている。幸い大病にはなっていないものの、引退は、周囲が「万一のことがあってはならない」と強く勧めたものだ。
あっけない負け方に、応援に来ていた家族(子供)から「もう1年」と言われたそうだが、周囲の気持ちが伝わっているだけに、その意思はなさそう。全試合終了後、マットの上で三恵海運の選手やスタッフから引退式をしてもらい、胴上げを受けて選手生活にピリオドを打った。しかし、宮崎県のレスリングの発展と、オリンピック金メダリストの育成を当面の目標とし、レスリングと歩む日は続く!