第1日が終わり、ベスト8に関東と関西以外で唯一残っていた鳥栖工(佐賀)。頂点に立ったのが鳥栖工で、九州の意地を見せた3年ぶりの優勝となった。
昨年のインターハイに続いての全国一。そのときは春の王者・日体大柏(千葉)が不出場で、春に敗れたリベンジを果たすことのない優勝だった。優勝は優勝で、価値は変わらないが、ちょっぴり物足りなさの残った優勝だったことだろう。今回は、その日体大柏を準々決勝で破っての優勝。鳥栖工の存在が、高校レスリング界に確固たる地位を築きつつある栄冠と言えよう。
小柴健二監督は、優勝しても感情を表に出す指揮官ではないので、今回も冷静に優勝を振り返った。先鋒となる51kg級に起用した2選手が、ともに全敗ということに納得がいかない様子。減量ミスで調子が出なかったこともあるようだが、「今後、しっかりと話し合いたい」と、選手のコンディショニングに改善の余地があると思った様子。
そのこともあって、日体大柏戦と決勝の自由ヶ丘学園(東京)戦はスタートから3連敗し、後がない状況に追い込まれての試合展開となった。しかし、65kg級の松原拓郎から上の階級の選手が白星を見込める安定感があるので、0-3となっても、それほどの心配はなかったようだ。
それでも、「軽量3階級で最低1勝すれば、かなり楽になると思っていた。それができなかったですね」と反省。インターハイへ向けての改善点のひとつとしたが、逆に、いずれも相手の流れの中にある瀬戸際でマットに上がった松原に、2試合も試練を与えることができたことは、今後のプラス材料。「決勝は負けてもおかしくない展開」(小柴監督)を踏ん張って勝ち、はからずも精神的な成長につながる経験をさせることができた。
同じことは71kg級の三浦修矢や80kg級の伊藤海里、チームスコア3-3で迎えた準決勝でしっかり勝った125kg級の吉田悠耶にも言えるわけで、苦しい状況の中でも勝ち抜くメンタルの強さが鍛えられたことは間違いない。何がプラスになるか分からないのが人生で、今回の経験がより強力なチームへの成長につながる可能性は十分だ。
昨年までの2年間、最重量級に守護神として構えていた甫木元起(4月から日体大)が抜け、柱がなくなって、どうなるかな、とも思われた同チームだが、「10人いる2年生が団結して頑張ってきました」と、選手の踏ん張りを称えた小柴監督。8月に地元・佐賀県で行われるインターハイで、2021年に続く春夏連覇を目指すことになった。
2007年に佐賀市で行われたインターハイは、初心者集団だった鹿島実を率いての参加。佐賀県のチームとして初めて3位入賞を果たし、選手の健闘を称えて大粒の涙をこぼした(関連記事)。今度は全国王者として、押しも押されもせぬ立場での参加。
圧倒的な強さで全国一を勝ち取り、感情を表に出さない同監督のほほに、17年ぶりの大粒の涙が伝わるか?