パリ・オリンピックの代表選手を輩出できず、“どん底”からの再浮上を目指す至学館大。今年のジュニアクイーンズカップはU23で2選手、U20で1選手が優勝し、復活の狼煙(のろし)をあげた。
U20-50kg級で優勝した森川晴凪(はるな)は、2021・22年にインターハイ50kg級2連覇を達成し、期待の一人だった。左ひざの靱帯断裂の大けがで1年間のブランク。その苦しさを経ての優勝。ライバルだった選手を連破しての優勝に、「1年間、試合ができなかった。つらかった分、結果が出てうれしいです」と涙が止まらなかった。
けがをしたのは、至学館高3年生の秋。インターハイ2連覇を達成し、全日本女子オープン選手権53kg級でシニア初の優勝を遂げたあとの希望に燃えていた時期だ。年末の全日本選手権には出たものの、けがを悪化させる結果に終わり、大学への入学を控えた2023年3月に手術を受けた。前進のための後退だが、マットでの練習ができない期間は、「置いていかれたような気がして…」と振り返る。
しかし、「つらくても(上半身の)トレーニングだけはしっかりやりました」と、希望を見失わないように頑張った日々。「体力づくりに専念できて、いい期間だ、と思うようにしました」とも言う。11月ごろにマットワークができるようになったが、本格的にレスリングができるようになったのは年が明けてから。約3ヶ月の練習期間での復帰戦だった。
監督やチームメートの励ましも支えのひとつだったが、2021年インターハイの“チャンピオン仲間”でもあり1年先輩の山口夏月(59kg級)も、同じようなけがで手術を受け、同じ練習で復活を目指していたことも大きな支えだった。一人ではくじけてしまう練習でも、2人なら頑張れる。「ともにつらい日をすごし、支え合ってきました。一緒に優勝したいという気持ちでした(山口は2位)」と、何度も涙声になった。
組み合わせでは、まず準決勝で対戦が考えられた坂根海琉子(京都・丹後緑風高~日大)との一戦がヤマだった。昨年のインターハイ・チャンピオンであり、今年2月には「クリッパン女子国際大会」(スウェーデン)で優勝。シニアの国際舞台でも通用する実力をつけている選手だ。
結果は4-2で勝ち、復活優勝へ向けて前進した。「インターハイ・チャンピオンの先輩として、負けられなかった?」との問いに、「そうですね」と肯定。ブランクがあっても、チャンピオンの意地は健在だった。
反対ブロックからは、予想通りU17世界チャンピオンの小川凜佳(岐阜・中京高)が出てきた。2022年に森川がインターハイを制したとき、1年生ながら決勝に出てきた選手。高校生とはいえ強敵だ。
試合は第1ピリオド、アクティビティタイムで森川が1点を先制したものの一進一退の攻防。それでも、相手にかける圧力は森川が押していたようで、第2ピリオドもアクティブティタイムで1点を挙げ、2-0となったが、技はかからない。逆にアクティビティタイムでポイントを取られて2-1となって、残り56秒。
ここで小川のタックルを森川が受け止め、回り込んで2点を取り、残り17秒をしのいで勝利をものにした。その瞬間、感情がこみ上げてきて、レフェリーからの勝ち名乗りを受ける前に顔をくしゃくしゃにし、復活優勝の喜びを表した。
栄和人監督は「高校に来たとき、将来は世界選手権やオリンピックを目指せる選手と思った」と、その潜在能力を振り返る。1年以上のブランクで、同大学で練習を続ける同級の全日本チャンピオンの吉元玲美那(KeePer技研)と「差がついたかな」と思ったそうだが、以前と変わらない強さを見せてくれて安堵の表情を浮かべた。「ブランクの最中も、モチベーションは落ちていなかった。それがよかったと思う」と振り返った。
学力も優秀で、高校進学にあたって勉強かレスリングか迷った末、レスリングを選んだそうだ。「だからこそ、けがには負けたくなかったんだと思う。この優勝で、ロサンゼルス・オリンピックの代表争いに加わる可能性が出てきた」と話し、今後に期待した。
この大会は2位に終わったが、復活に向けた練習仲間の山口夏月(前述)も、4試合中3試合をテクニカルフォールで勝つ内容で、次の大会へ向けてのめどが立ったことも大きい。同監督は、チーム全体の復活の手応えをしっかり感じているようだ。
今大会の結果によって、U23世界選手権に2人(屶網瑠夏、山本和佳=OGの稲垣柚香を入れれば3人)、U20世界選手権に1人(森川)、U20アジア選手権に2人(山口、北出桃子)、附属の至学館高からU17世界選手権に1人(勝目結羽)、U17アジア選手権に1人(高山海優)の出場が決まった。
日本女子が華々しく活躍するであろう今夏のオリンピックを横目で見るだけになる同大学だが、次世代の選手が国際舞台に飛び立とうとしている。2028年ロサンゼルス・オリンピックを目指した闘いは始まっている。