2022年12月の天皇杯全日本選手権・男子グレコローマン55kg級で、「17歳4ヶ月9日」のグレコローマン最年少で王者に輝いた金澤孝羽(こはく=東京・自由ヶ丘学園高~日体大)が、2024年JOCジュニアオリンピックカップ男子グレコローマンU20-60kg級決勝で、3連覇を目指す五味虹登(育英大)にフォール勝ち。負傷のブランクを乗り越え、まずU20世代の日本一を確保した。
五味はV3を狙うとともに、昨年の国体と全日本大学グレコローマン選手権を制し、“ポスト文田健一郎”を争う一人に躍進した選手。負けると思って闘っていたわけではないだろうが、「勝てると思わなかったというか…。(勝つことが)現実になるとは、正直思っていなかったので、うれしいです」と喜びを表した。
フォールの体勢になったのは、五味にグラウンドの防御で自滅のような動きがあったからで、五味が守ることに専念していれば、そのシーンはなかったかもしれない。そのあたりが、遠慮がちな言葉が出てくる理由なのだろうが、そこに至るまでには、国体&大学王者とのケンカ四つのスタンド戦に負けず、場外とパッシブで2-0とリードして優勢に進めていたことは間違いない。
それを指摘されると、「(日体大で)トップの選手に毎日もまれていまして…。マットと友達になっているからだと思います」と、粋な回答。「マットと友達になっている」とは、倒されてマットに押しつけられ続けているという意味。文田健一郎(パリ代表内定)、鈴木絢大(アジア大会2位)、稲葉海人(アジア選手権2位)らのOBとの練習で上になることは少なく(なく?)、練習時間の大半はマットに接しているのだろう。
日体大に進み、「自信をなくしていたんですよ…」とも言う。だが、今大会では1回戦から順当に勝ち進み、「こんなもんか」との気持ちに変わった。練習している場所のレベルが高過ぎただけ、と思ったそうで、国体&大学王者と相対するときは「あの先輩たちと闘っているんだから、負けるはずはない」という気持ちも芽生えていたそうだ。
けがに見舞われたのは、グレコローマン最年少王者として希望に満ちて臨んだ昨年の全国高校選抜大会。学校対抗戦の最中に右ひざの靱帯を痛めた。個人戦に出場して2試合を勝ったものの、痛みが限界に達して以後の試合を棄権。手術に踏み切った。
同級生の坂本輪(フリースタイル61kg級)が明治杯全日本選抜選手権で優勝するなど華々しく活躍するのを横目に見ながら、リハビリに励み、復帰したのは年末の全日本選手権。初戦で日体大選手に敗れたが、「自由ヶ丘学園のシングレットで、もう一度試合に出たかったので」と、勝てなかった悔しさより、試合に出場できたことの喜びの方が強かった大会だった。
最年少全日本王者は、55kg級でのことであり、過去のこと。60kg級に上げたときから、「この階級は別世界」との思いがあり、チャレンジャーの気持ちだったと言う。今年の目標は「全日本選手権の表彰台」。階級が違うとはいえ、すでに全日本王者に輝いている選手にしては控えめと思われるが、文田、鈴木、稲葉らの顔が浮かんだのか、「まだ(優勝とまでは)…」と、かすかな笑みが浮かんだ。
ただ、U20世界選手権は「(優勝を)取りにいきます」ときっぱり-。