(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)
明治杯全日本選抜選手権初日(5月23日)に行われた女子57㎏級は荒れに荒れた。優勝候補に挙げられていた南條早映(自衛隊)は、初戦の準々決勝で新井一花(育英大)に敗北を喫した。その後、敗者復活戦を勝ち上がったものの、続く3位決定戦では成長著しい山下叶夢(東洋大)に敗れた。
南條は山下戦の後、「パリ・オリンピックの予選が終わった時点で(気持ちが)いっぱいいっぱいだった」と振り返った。
「3歳から続けてきたレスリングなので、次の目標が定まっていない中でも気持ちを新たに前に進めたらいいなと思い臨みました。それでもパリを逃したことを引きずっていました。初戦は減量に失敗したわけではなく、体も足も動いていた。シンプルに自分の練習不足、技術不足だと思います」
新井は昨年のU20世界選手権で銀メダルに輝いた有望株。これまで、国内のシニアの大会では目立った活躍を見せていなかったが、南條を破った勢いで決勝に進出した。
もう一方のブロックを勝ち上がってきたのは屶網瑠夏(至学館大)。2022年のアジア選手権で優勝した屶網さら(keeper技研)の妹で、昨年の全日本学生選手権57㎏級で優勝している選手だ。
「いつも勝てない南條さんが反対プロックで負けてしまったけど、自分は挑戦者の気持ちで最後まで点数をとっていこうと心に決めていました」
新井とは昨年10月の全日本女子オープン選手権57㎏級準決勝で激突。最後の最後で逆転負けを喫している。今回は第1ピリオドにバッティングを受けるという不運もあったが、片足タックルを二度も決められ、5-0とリードを許してしまう。
しかし第2ピリオドになると、屶網はレッグホールドで2点を返して反撃を開始。その後新井のステップアウトや度重なるチャレンジの成功で、5-5のスコアながら、ラストポイントで屶網が逆転。その後、第2ピリオドが終わったかどうかという微妙なタイミングで新井がバックを取ったかに見えたが、タイムアップが宣告された。
当然、新井サイドはチャレンジを要求したが、審議の末ノーポイントと判断され、最終的に屶網が6-5で勝利。明治杯でうれしい初優勝を果たした。
「自分は逆転勝ちできるタイプではなかった。去年の明治杯(55㎏級決勝)では片岡梨乃さん(早大)に4-0とリードされ、そのあと2点を返したけど、追いつけなかった。今回は最後まで攻め続けてポイントを取るという強い気持ちを持ち続けたことが逆転につながったんだと思います」
現在、屶網は大学4年生。今回の明治杯は「卒業後もレスリングを続けるかどうかを選択するための重要な大会」と位置づけていた。
「次は8月にインカレ(全日本学生選手権)があるので、その結果次第で、最終的にどうするかを決めたい。現時点で(続行かどうかは)フィフティ・フィフティですね」
振り返ってみれば、1年前のこの大会の女子57㎏級決勝は、パリ・オリンピック代表の座を巡り、櫻井つぐみ(当時育英大)と南條が激しいデットヒートを展開していた。時は移り過ぎていく。