(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)
2024年明治杯全日本選抜選手権最終日に行なわれた男子グレコローマン63㎏級では、鈴木絢大(レスター)が決勝で三谷剛大(育英大)を9-0のテクニカルスペリオリティで撃破。昨年12月の天皇杯全日本選手権も制しているので、今年10月開催の非オリンピック階級世界選手権(アルバニア)への出場を決めた。
失点は準決勝の澤田幸明(拓大)のみという圧倒的な強さを見せつけての優勝。鈴木にとってはモチベーションを持続するだけの理由があった。
「今大会は、アジア選手権の悔しさを次(世界選手権)につなげるために出場しました」
4月にキルギスで行なわれたアジア選手権では、準決勝で昨年優勝のイマン・ホセイン・モハマディ(イラン)に11-4で勝利をおさめたが、続くイェルジェト・ジャルリカシン(カザフスタン)との決勝では、激しいデットヒートを繰り広げ、スコアは6-6ながらラストポイントを取られたため惜敗した。
鈴木は「あの一戦は自分の展開ミスで負けた」と悔やむ。「グラウンドで仕留めていれば、自分の勝利で終わっていたと思う。今回はそこをしっかり修正したうえで臨みました。準決勝でポイントを取られたときも、しっかり攻めていれば、後半自分にグラウンドが来ると信じていました」
鈴木はオリンピック階級の60㎏級で文田健一郎(ミキハウス)としのぎを削っており、昨年10月のアジア大会(中国)は銀メダルを手にした。その後の全国社会人オープン選手権から階級を上げ、非オリンピック階級の63㎏級に出場し続けている。なぜ階級アップを?
「自分の最大の目標はオリンピック。そこは揺るがないけど、4年間ずっと60㎏級で続けるのは精神的に厳しいところも、ちょっとある。そこで(減量の少ない)63㎏級に挑戦することにしました」
既にメリットも感じている。 「海外の試合では、一瞬でも気を抜いたらポイントを取られてしまう。63㎏級では特にそういう場面が多いと感じたので、自分にとっては絶対プラスになっていると思いますね」
今大会の60㎏級では、大学の後輩であり日体大で一緒に汗を流す稲葉海人(滋賀県スポーツ協会)が優勝した。
「僕や海人が明治杯で優勝して、健一郎先輩に発破をかけるわけじゃないけど、僕らが死ぬ気で取りにいくことは健一郎先輩の強化にもつながっていると思う」
すでにパリ・オリンピック内定を決めている文田とともに、鈴木と稲葉は大学でも激しくやり合っている。鈴木は稲葉の成長を肌で感じている。「自分でいうのもなんですけど、日体大のグレコローマン60㎏級は世界一の練習環境だと思っています。健一郎先輩もそう言っているので間違いないです」
10月下旬、アルバニアで開催の非オリンピック階級世界選手権で優勝を狙い、その後は階級を60㎏級に戻す青写真を描く。現段階ではパリ・オリンピックに出場する文田のその後の去就は分かっていないが、稲葉の現役続行は確実。そうなると、鈴木との直接対決は避けらない。
「少しでも気を抜いたら自分が一歩下がってしまう、という危機感を持ちながら3人で練習しています。練習の緊張感は試合のそれに及ばない。どれだけ試合の緊張感に近づけるかを課題に取り組んでいきたい」
小柄な体に大きな炎。パリ・オリンピック後も、グレコローマン60㎏級代表を巡る争いは、沸点を超える闘いとなるのか。