昨年10月の全日本女子オープン選手権U15で初の全国一に輝いた粟野和夏(千葉・市川コシティ)が、女子58kg級で4試合を勝ち抜き、3年生にして沼尻直杯全国中学生選手権の初優勝を成し遂げた。昨年11月の全国中学選抜U15選手権と今年4月のジュニアクイーンズカップU15でも優勝しており、4大会連続の優勝。
「小学校2年生のときからレスリングを始めて、ずっと優勝できないでいました。最近、やっと勝てるようになってきまして、信じられないです」と、4大会連続の優勝に声を弾ませた。
ジュニアクイーンズカップ決勝の相手の加藤百々花(岐阜・羽島市連盟)が反対ブロックにいて、今大会でも決勝での対戦を予想。前回の試合で勝っていたとはいえ、反省する点もあったので、「それをしっかり生かして闘おうと思いました」と言う。
今大会でも勝ったとはいえ、思った通りにいかないのが勝負の世界で、ローリングの失敗でポイントを失ったり、カウンター技を受けたりで4点を失う内容。技を受けての失点はなかったが、「両足タックルがうまくできなかったり、ローリングが甘かったり…」との新たな反省点も出てきたので、「次に生かしたい」という。
それでも、常に攻撃していたのは間違いないし、準決勝までの3試合は、いずれも第1ピリオドに無失点のフォールかテクニカルスペリオリティで勝って「自分のレスリングができました」と言うから、内容的にも十分に合格点の優勝だろう。
レスリングは小学校2年生のとき、警察官である母方の叔父と遊びで組み合っていたところ、「力が強いね。レスリングやってみたら」と言われたことがきっかけ。近くに市川コシティがあったので通い始めた。「体験で行ったとき。みんな楽しそうにやっていました」とのことで、レスリングのことはほとんど知らず、「あこがれの選手とかもいませんでした」と言う。
昨年秋から勝てるようになった理由を問われても、特別に思い当たることはなし。「ジャボさん(クラブの代表)や両親に鍛えてもらって、やっと芽が出てきたんだと思います。変わったことは、何もやっていません」と言う。
クラブの代表は、イラン人のジャボ・エスファンジャーニさん(通称ジャボさん=関連記事)。2028年ロサンゼルス・オリンピック出場を目指す吉田ケイワン(三恵海運=5月の全日本選抜選手権優勝)、アラシ(日大=昨年12月の全日本チャンピオン)兄弟の父で、両選手の活躍によりクラブは注目を集め、勢いに乗っている。
両選手も時々クラブに顔を出してくれるそうで、技術・精神両面でのアドバイスは言うに及ばず、オリンピックを目指す選手が身近にいるだけでも刺激されるに違いない。
ジャボさんは粟野について、「まじめに練習に取り組む選手です。アドバイスをしっかりと聞く耳があり、練習を積み重ねた結果だと思います」と言う。7月16~18日にタイ・シラチャで予定されているU15アジア選手権への出場が決まっており、このあとは“世界仕様”のレスリングを指導して好成績を期待する。
同クラブからは、3月のU13ジャパン・オープンで優勝した選手もいて、ケイワンやアラシに続くであろう選手が次々に生まれている。両選手によって築かれたベースは、ジャボさんにとって大きな強み。「自分の子供だけではなく、クラブに来てくれる選手には、みんな優勝して、上を目指してほしいと思っています。オリンピック選手を育成することで、日本のレスリング界に恩返しがしたい」と言う。
2012年のクラブ設立から12年。自身の子供は巣立っていったが、選手育成の情熱は衰えていない。