3月のU15アジア選手権・代表選考会を制して初の国際大会(7月中旬、タイ)への出場を決めている齊藤巧将(東京・日大ジュニア)が男子62kg級を制し、3年生にしてこの大会初優勝。U15アジア選手権へ向けて弾みをつけた。
準決勝までの4試合は、不戦勝1試合と無失点のテクニカルスペリオリティ勝ち3試合で、頭ひとつ抜け出ている強さを見せていたが、決勝の相手の本多世宝(神奈川・NEXUS YOKOSUKA)も4試合をフォールかテクニカルスペリオリティで勝ち上がっていた。キッズ時代に全国大会と全国選抜大会を合わせて3度、優勝している選手。
ただ、2021年全国少年少女大会(熊本)の6年55kg級決勝での対戦では齊藤が勝っており、やや精神的な優位性があったかもしれない。何よりも、現在の練習環境で「負けるわけはない」という自信があったことを、きっぱりと口にした。連日、日大の練習に加わって大学生選手とも豊富なスパーリングをこなしており、「絶対に勝つ、という気持ちで闘いました」と言う。
父であり、この4月から日大の監督に就任した将士さんは「練習でやってきたことが、すべて出せたと思います。考えて闘っていました」と評価。来るべきU15アジア選手権では「思い切ってやってほしい」と望んだ。
父方の祖父(齊藤勝彦)が世界ジュニア・チャンピオンのほか、母方の祖父(菅芳松)はオリンピック選手、父(前述)はアジア王者、母(旧姓菅綾子)は学生チャンピオン、母の兄(菅太一)はアジア王者と、血筋がすばらしい選手。それを証明したのが2022年11月の全国中学選抜U15選手権で、男子で唯一の1年生チャンピオンに輝いた(関連記事)。
勝負の世界は、血筋だけでは勝ち続けられない。若くして台頭すれば、上級生も意地を出す。昨年のこの大会は準決勝で古川音和(東京・高田道場=現大阪・大体大浪商高)に敗れ、優勝を逃した。研究されたこともあるだろうが、本人は「1年生で優勝して、ちょっと天狗になっていた部分がありましたね」と反省する。
だが、つまずきは、大きなエネルギーにもなる。真摯な姿勢で練習に取り組み直せたからこそ、全国中学選抜U15選手権で2連覇を達成し、U15アジア選手権の代表権も手に入れられた。「優勝しても、チャレンジャーの気持ちを忘れないようにしなければなりません」と話し、昨年の負けがあったからこそ、「今年の優勝があった」と振り返った。
「天狗にならない」という意味でも役立ったのは、4月のJOC杯ジュニアオリンピックのU17(60kg級)に出場したこと。2回戦で2歳上の選手に1ポイントも取れずに敗れたが、実は1年生王者に輝いたときの大会で対戦しており、11-9で勝っていた相手だ。一度の勝利は、次の勝利を保証するものではない。ここでも、勝負の世界の厳しさを肌で感じたはず。
将士さんは「練習量のほか、心構えから見直しするよう、アドバイスした」そうで、そのときから練習への姿勢が変わっていたと振り返る。年上だから負けてもいい、ではない。「世界やオリンピックを目指すなら、年齢は関係ないです」と話し、これからも年上の選手と闘うことが多くなるが、常に勝利を求めて闘うことを望んだ。
U15アジア選手権まで約1ヶ月。国際大会は初めてだが、齊藤は「今は外国選手と闘うのが楽しみです」と気持ちは上向き。「自分のレスリングがどこまで通用するか確かめたい。でも(確かめるだけでなく)絶対に勝ちたい」と気を引き締める。今大会では、構えが浮いたり、先に圧力をかけられたりといった反省点があり、U15アジア選手権まで、これらの克服を目指して練習を積む予定だ。
この大会と同時期にあった世界レスリング連盟(UWW)のランキング大会で、樋口黎(ミキハウス=57kg級)と清岡幸大郎(三恵海運=65kg級)が優勝するなど、日本のシニアの軽中量級は世界トップクラスであることを証明した。初の国際舞台でも、恐れることは何もない。「自分たちの世代でも、海外の選手に勝っていけるようにしたい。(シニアの先輩たちに)続きたい」と、シニア日本代表選手を目標にして世界へ挑む。