(文・写真=布施鋼治)
パリにつながる、価値ある3位入賞だ。6月7日、ハンガリーの首都ブタペストで行なわれた世界レスリング連盟(UWW)のランキング大会「イムレ・ポリヤク&ヤノス・バルガ国際大会」第2日、男子フリースタイル86㎏級の石黒隼士(自衛隊)は、初戦で敗れたものの、3位決定戦を制して銅メダルを獲得した。
抽選でトーナメントの組み合わせが決まった時点で、初戦の2回戦から試練が予想された。昨年の世界選手権2位で2021年世界王者のハッサン・ヤズダニチャラティ(イラン)が1回戦を勝ち上がれば、対戦する組み合わせだったからだ。過去2度対戦し、いずれも黒星。
今回もテクニカルスペリオリティで敗れたが、石黒は確かな感触をつかんだ。「過去2回やったときには見えなかった攻略法というか、第1ピリオドで、闘える、という手ごたえを感じました。それを6分間続ける体力があれば、勝負はどちらに転がってもおかしくない内容だったと思っています。パリに向け、最高の研究材料を日本に持ち帰ることができて良かった」
石黒のファイトスタイルは先手必勝型。今回もヤズダニチャラティから先制点を奪ったが、そのあとが続かなかった。
「自分の強みは先制点を取ること。今回もヤズダニを相手に点数を取れたまでは良かったけど、そのあと自分が疲れたときにどれだけ追加点を取れるか、というところがまだできていない。そこはもっと突き詰めていきたい」
石黒は当初、この大会に出場する予定はなかった。しかし4月のアジア予選(キルギス)でパリ・オリンピック出場を決めて以来、モチベーションを失いかけていた時期もあったので、自衛隊の湯元進一コーチと相談したうえで出場を決めたという。
「アジア予選では(不戦勝があったので)1試合しか闘っておらず、課題が見つからない状況でもあった。そこで湯元コーチと話し合い、『強い選手と闘うことで、自分の中で新たな課題を見つけていこう』となりました。メダルも取れたし、結果的に、この大会に出て本当によかった」
アジア予選では初戦の2回戦で闘う予定だったアジア大会2位のディーパック・プニア(インド)が計量失格し、不戦勝となったが、今大会でも敗者復活戦を不戦勝で勝ち上がった。石黒は「自分はそういう(運)を持っているというか、ラッキーだなと」
とはいえ、3位決定戦の相手は昨年の世界3位で2022年から3年連続アジア選手権を制しているアザマト・ダウレトベコフ(カザフスタン)。石黒にとってはヤズダニチャラティ戦に匹敵する大きな試練となったが、「日本にいるときから、周囲には『ダウレトベコフに勝てる』と大口をたたいていた」と打ち明ける。
その発言通り、石黒は5-1で世界3位の強豪を撃破した。勝因は? 「自分のレスリングを貫けたことです。簡単に説明すると、ジャンケン。先に仕掛けると相手も反応してくるじゃないですか。その反応を見て、後出しジャンケンをする。例えば相手がグーを出してきそうだったら、パーを出すみたいな。そういうレスリングができることが自分の強みだと思う」
試合の6日後、帰国した石黒は他の自衛隊勢とともに日体大に出げいこに訪れ、同大学の松本慎吾監督からみっちりしぼられていた。もちろん、石黒が望んでのこと。「帰国してから2日だけ休んだ」と言う石黒だが、帰国直後とは思えないほど自分を追い込んでいた。
激しい差し合いを繰り返しながら、松本監督は石黒につぶやいた。
「頼んだぞ、日本の重量級を」
オリンピックまで、まだ成長できる。