今月6~9日にハンガリー・ブダペストで行われた世界レスリング連盟(UWW)のランキング大会「イムレ・ポリヤク&ヤノス・バルガ国際大会」に出場し、その後、同国の地方都市で行われた合宿に参加した男子グレコローマン67kg級の曽我部京太郎(ALSOK)と同77kg級の日下尚(三恵海運)が6月21日、成田空港に帰国した。
日下は4月のアジア選手権に続いて金メダルを手にし、この優勝でパリ・オリンピックの第1シードになることが決まった。「あまりこだわってはいなかったです。せっかくのオリンピック、赤のシングレットしか写真に残らない(注=第1シードの選手は常に赤のシングレット)のは残念、という気持ちもあるんです」と詰めかけた報道陣を笑わせた日下は、「棄権選手が出れば、試合数が少なくなる。集中という面で、やはり違いますよね」と、そのメリットも口にした。
続けて、「第1シードで臨めるのは、日本レスリング界の明るい材料かな、と思います。(文田)健一郎先輩が見せてきたけど、日本のグレコローマンも世界で勝てることを自分も見せられたと思います」と、日本の実力をアピールできたことがうれしそう。
その後の合宿では、87kg級の選手と練習することもあり、けっこう厳しい内容だったと言う。特に、外国選手のグラウンドの攻撃力の強さは、日本では経験できないこと。スタンドで押し勝って先制ポイントを取り、流れをつかむのが自分の勝ちパターンだが、もし最初にパッシブを取られてグラウンドの防御をしいられた場合は、どんな展開になってしまうかは分からない。
「試合では経験できなかったことを合宿で経験できました。しっかりと修正したい」と言う。アジア選手権では世界王者を破ってもいるが、「たまたま勝っただけかもしれない。とんとん拍子にいきすぎている部分があるので、ここまでの勝ちはすべて忘れ、1から見直したい。調子に乗ったら負けてしまう。オリンピックで勝たないと意味がない」と気を引き締め、「オリンピックで勝ったら、調子に乗ったインタビューさせてください」と、再度報道陣を笑わせた。
パリへ向けての反省点のひとつが、パワーの源として持って行った地元香川のうどん。「3分早ゆで」ではなく、「15分ゆで」だったそうで、時間がもったいなく、ほとんど食べなかった。「パリへは、間違いなく『早ゆで』を持っていきます」と苦笑い。
ランキング大会の3位決定戦で終了間際に逆転負けを喫し、メダルを逃した曽我部は「試合では、世界チャンピオンと闘えたり、(3位決定戦で)最後に逆転負けを経験。合宿では、オリンピックに出てくる多くの選手と練習でき、いい遠征でした。本当によかった」と振り返った。パリで金メダルを取るためには、「もう1段階、2段階、意識の問題を含めてレベルアップの必要を感じました」と言う。
世界王者のルイス・オルタ・サンチェス(キューバ)には、手首を押さえられて前に出る力を封じられ、自分のポジションを取らせてくれないなど「世界チャンピオンの強さを感じた」と言う。キューバ選手とはこれまで試合も練習もする機会がなく、「やりにくかった。(合宿で練習した他の選手も)瞬発的な力がすごい」とのこと。それでも後半は明らかに「ばてる」そうで、オリンピックで闘うとしたら、「6分間の中で、どう闘うかを考えたい」と言う。
試合会場では、ウォーミングアップ場が思いのほか暑く、コンディションづくりでやや苦労。どのくらいの気候かを把握しておく必要性も感じた。「脱水状態にならないように、些細なことでも考えてやらないとだめですね」と話し、8月初めのパリの気候と、会場内の室温などのチェックも今後の課題となったようだ。
合宿では、笹本睦コーチ(日本オリンピック委員会)のアドバイスを受けてひとつひとつの技術を修正。パリ・オリンピックに出る選手が多いだけあって、「ピリピリ感がすごかった。全員が必死の練習。ひとつのミスや体の位置の間違いで、いい位置を取られ、それが命取りになることを感じた」と言う。「勝つ、という強い気持ちを持たなければなりません」と話し、残り1ヶ月半の練習にかける。