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2024.07.05

【特集】今川加津雄氏(日体大OB)が代表に就任、創立50周年へ向けて団結するキッズ・レスリングの老舗・吹田市民教室

 

 「吹田市民レスリング教室」といえば、かつてキッズ・レスリングに絶対王者として君臨していた老舗(しにせ)チーム。創始者・押立吉男代表(2008年11月没)の強烈な情熱のもとで多くの強豪選手を輩出し、2007年まで行われていた全国少年少女選手権の団体得点で24回中20回を制覇。他を寄せ付けない強さを誇っていた。

 昨年の全国大会でも5階級を制し、常に全国チャンピオンを生むトップレベルにはいる。“一強”が崩れたといっても、キッズ・レスリングが盛んになって全国のレベルが上がったからであり、全体としては健全な発展と言える。吹田で学んだ選手が指導者として全国へ散らばった結果でもある。少子化時代にもかかわらず部員数約90人と15人を超えるコーチ数は全国でも有数の大規模クラブだ。

▲押立杯吹田市民少年少女選手権へ挑む選手達を激励する今川加津雄・新会長(中央)

 同教室の代表に2013年に就任した西脇義隆氏がこの6月に勇退し、日体大レスリング部OBの今川加津雄ヘッドコーチが昇格。2028年の創立50周年を目指して新たな闘いがスタートした。西脇・前代表は「押立先生がいたら怒られるような成績もありましたが、弱くはしていないと思います」と振り返り、強豪大学出身の今川・新代表へ将来を託した。

 同代表は、日体大では藤波俊一・現日体大コーチ(藤波朱理選手の父)や全国高体連専門部の田中秀人・現副理事長と同期。来月、パリで長女が輝いて脚光を浴びるであろう藤波コーチや、高校レスリングの発展に欠かすことできない活動をしている田中副理事長に負けず劣らずの活躍が望まれる。

▲教室を11年にわたって牽引した西脇義隆氏(右)から今川加津雄氏へバトンタッチ

押立代表がつくった吹田市との強力なパイプは健在

 今川・新代表は、伝統あるチームの代表に就任したことについて、「重いですね…」と苦笑い。一人で切り盛りするのではなく、「コーチ、保護者とともにチームを盛り立てていきたい。若いコーチを育てたい」と言う。

 4つの体育館(北千里市民体育館、山田市民体育館、市立武道館、南吹田市民体育館)で練習しているのは、押立時代から変わらない。最近は総合格闘技のジムが運営するクラブも多く、そうしたところは会費も高いが、吹田市民教室は「1ヶ月1,000円」を続けている(4ヶ所に通う場合は4,000円)。

 「子供の健全な成長のためなら、少しくらい高い会費でもいい」という家庭ばかりではないので、こうしたクラブの存在も必要だ。押立代表は吹田市と強力なパイプをつくり、当時から市がマットや備品の購入、大会運営などでクラブを全面的にバックアップしていた。その体制を現在も続けており、定期的な大会開催ができるのも吹田市のおかげだ。

▲市立武道館での練習風景=提供・吹田市民教室

「キッズは基礎づくりの期間」…今川加津雄・新代表

 今川・新代表は、伝統を引き継いで頂点を目指したい気持ちは十分に持っている。ただ、「古いやり方かもしれませんが、キッズはタックルとローリング中心のレスリングでいいのではないかな、とも思います。今は勝てなくても」とも言う。

 自身がキッズ・レスリングに接したのは、長女を吹田市民教室に通わせた2000年頃。当時から、かなり高度な技が展開されていたが、「キッズは勝つことがすべてではない。基礎づくりの期間であり、高度な技で勝っても、将来、伸びないのではないかな、と思います」との思いを抱き続けていた。

 日体大レスリング部で学んだ技術を教えれば、勝つレスリングをさせることはできるが、「それで将来も勝ち続けられるのかな、とずっと思っていました」と言う。オリンピックを目指せるだけの資質のある選手であっても、「今は勝てなくてもいいと思うんです。いつ勝つか、を考えた場合、今は基礎づくりが必要だと思うんです」との持論を展開した。

▲パリ・オリンピック代表の樋口黎(ミキハウス)も吹田市民教室で汗を流した選手。体育館の入り口には、他競技の有名選手とともに色紙が飾られている

 コーチの中には、強い選手への指導に偏ってしまうケースもあるようだが、「通ってくる選手の体力や資質に合わせた練習をさせることも必要」と力説。その意味でも、優勝選手の数より「出場した全選手が3位以上の入賞を果たすチームを目指したい」と話した。

 弱かった選手を強くすることが「チーム全体を強くすることにもなる」と話し、指導方針として徹底させる腹積もり。各コーチの持論を尊重しつつ、「まとめていきたい」と言う。

押立杯には東京からも5クラブが参加

 1987年に関西少年少女選手権の冠となった「押立杯」は、2000年を最後に同大会から離れ、吹田市民少年少女選手権の冠となった。出場選手数は減少したが、それでも今年6月23日に北千里市民体育館で行われた大会には、東京の5クラブを含めて54クラブから291選手が参加した。

▲2018年6月の大阪北部地震で建物の一部が損壊した北千里市民体育館。修復し、キッズ選手の闘いの場となっている

 MTX GOLDKIDSの成國晶子代表は、東京からの遠征について、「関西のレベルが上がってきているので、全国大会を前に確認しておきたい」という理由もさることながら、「約20年前から出場しています。ルーティーン(決まった所作)です。私達の気持ちの中では、吹田は王道なんです」と話す。電光掲示板を無料で貸与して協力するなどして、キッズ教室の先輩に敬意を示す。

 ワセダクラブとMTX ACADEMYの選手を引率してきた鈴木啓仁代表は「関西勢の勢いはすごく、この大会に参加する選手のメンツもすごい。全国優勝を目指す選手には、ぜひ体感してほしい」と大阪までの遠征の理由を話す。タックルなど基礎の力は、平均して関西のチームの方が上と感じるそうだ。今年で3回目の参加だが、「この大会を経験した選手は、全国大会で上位へ行くことが多いですね」と、その効果を話した。

老舗クラブが運営する大会ならではの求心力

 WRESTLE-WINの永田克彦代表は、1997年に国体で初めて優勝した場所(会場)が、この体育館で、そのとき以来の訪問で懐かしそう。「一度は見たい大会だった」と、伝統の大会への思いを話す。「ふだん対戦する機会のない選手と試合ができるのがいい」と、関東の大会だけでは経験できない試合が選手の強化に役立つと話した。

 10年以上前から参加しているフィギュアフォークラブの本多尚基代表も「全国大会を前に、こうした強い選手の出る大会に出て刺激を受けてほしい」と遠征の理由を話す。いつ来ても「ウエルカム」という歓迎の雰囲気が伝わってくるそうで、「保護者が『また参加したい』と言うんです」と話す。老舗クラブが運営する大会ならではの求心力があるのだろう。

▲今年の押立杯は5階級で優勝したものの、21選手中メダル獲得は6人のみ。今川・新会長の「出場した全選手が3位以上の入賞」という目標へ向けての闘いが始まる

 関西少年少女選手から吹田市の大会になっても、参加選手が増える「押立杯」。今川・新代表は「運営スタッフの確保も大変になってきます」と話すが、4面マットでできる最大限の選手数が集まるまで大会を大きくしたいという希望を持っている。

 大所帯ゆえに、幹である押立代表がいなくなったら「分裂する」という声があって、同代表もその可能性を否定しなかったが、他界して16年たっても教室は健在。4ヶ所で練習という同じ光景が続いている。団結して50周年を目指すチームを、押立代表は天国から微笑んで見守っていることだろう。


《2024年押立杯吹田市民少年少女選手権・成績一覧》







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