ヨルダン・アンマンで行われたU17世界選手権に参加した男子フリースタイル・チームが8月27日、成田空港に帰国した。優勝選手はいなかったが、「銅3個」を取り、この大会が再開された2011年以降のメダル獲得の伝統は続いた。
高坂拓也監督(埼玉・花咲徳栄高教)は「各所属の監督の強化の賜(たまもの)だと思います。男子グレコローマンと女子が厳しい結果でしたが、いろんな情報をいただき、役に立ちました」と、3スタイルの団結の結果と振り返る。
優勝選手がいなかったのは残念だが、シニアの国際舞台で活躍している選手は、必ずしもこの世代で優勝を経験しているわけではないので、目先の結果にこだわる必要はないことを強調。「今のままでは世界で勝てないことも感じてほしい」とする一方、「これからの選手ばかりです。若いうちに世界のレスリングに接したことがよかったと思います」と話す。
砂川航祐監督(福島・ふたば未来学園高教)は「久しぶりに遠征に帯同させてもらいました。技術はどの選手もいいものを持っていると思いますが、フィジカル面が違います」と、基礎体力の差を感じた様子。
それ以上に感じたのが、外国選手の勝利への執念。日本選手も負ければ悔しがるが、外国選手は泣き叫ぶほど悔しがり、判定に納得がいかなければ、褒められたことではないがマットを下りないで抗議する選手もいる。「勝つことへの執念の差が結果に出たのかな、と思います」と言う。
同コーチにとっては、女子で教え子の筒井双(57kg級)と内山陽誇(69kg級)の2選手も出場し、ともに銅メダルを獲得した。男子フリースタイルのコーチとして参加したので、つきっきりというわけにはいかなかったが、チームリーダーと監督の配慮でセコンドにつくこともできた。「2人とも、もう少し頑張れば、もうひとつ上の順位にいけた。内山は早生まれなので、来年もU17。国内で勝って、今度は世界チャンピオンを目指してほしい」と望んだ。
世界の女子の試合を見てレベルを見て知ることもでき、今後の指導に役立てたいと言う。
吉岡治チームリーダー(京都・丹後緑風高教)は、男子グレコローマンでメダルがなかったことにふれ、「U17アジア選手権で全員が初戦黒星という結果からして、今回も厳しい結果は予想していた。スタンド戦で押し負けた選手がほとんど。ミスをしたから負けた、ではない。最初のスタンドで負けていては、どうしようもない」と総括。
ただ、メダルなしは今年に限ったことではなく、これまで何度もあったこと。「フリースタイルを中心にやっていて、ちょっとグレコローマンをやる、という選手では通じないことをあらためて感じた」そうで、これが日本のU17世代のグレコローマンの現状。昨年優勝した吉田泰造(香川・高松北高)が例外中の例外であり、今の状況ではやむをえない面もあると、選手をかばう気持ちもあるようだ。
U15でグレコローマンが始まることもあり、「根本的な強化を考えていかねばならない」と話した。
団体世界一から転落した女子は、「例年より攻める姿勢がなかった」と感じたそうだ。優勝した勝目結羽(愛知・至学館高)だけは常に攻めていたが、他選手は消極的な部分が目に付いたという。
男子フリースタイルは、71kg級という重量級に属する階級で伊藤海里(佐賀・鳥栖工)が銅メダルを取ったことは大きいと見ている。「積極的にタックルに行き、グラウンドも返す」という内容で、今後につながる内容だったと言う。他の2階級は、「負けた試合は、相手に組まれて逆転された内容」だそうで、日本では試合終盤に組み合ってくる選手はそうそういないので、戸惑い、スタミナもロスしていたと言う。
「日本選手はスタミナがある」は定説で、実際に練習を多く積んでいる選手はなかなかばてないが、外国選手のように組みついてくる選手相手では必ずしもそうでないもよう。このあたりの体力作りが今後の課題となりそうだ。
■51kg級3位・小此木仁之祐(宮崎・都城東高)「(初戦黒星だが)敗者復活戦と3位決定戦に回れて、銅メダルを取れてうれしかったです。会場のムードに飲まれたり、相手のリズムに巻き込まれなかったので勝つことができました。初戦は、相手が体力のある選手で、疲れてしまって自分のレスリングができなかった。外国選手は力があり、知らない技をかけてくるので、いっときも安心できない闘いでした。来年もU17なので、来年の世界選手権で優勝できるように頑張りたい」
■60kg級3位・與那城一輝(栃木・足利大附高)「メダルを持って帰って来られたのでよかったのですが、優勝を目指していたので、悔しい気持ちの方が強いです。(2-4で負けたキルギス戦は)ラスト15秒くらいで逆転されれたもので、自分の弱さ、詰めの甘さが出てしまいました。この選手が優勝したので、自分にも優勝できる力はあったと感じました。負けた後は、メダルは絶対に取りたいと思ったので、気持ちはすぐに切り替えられました。今回の経験を生かし、国内でも海外でも常に優勝できる選手になりたい」
■71kg級3位・伊藤海里(佐賀・鳥栖工高)「優勝を狙っていたので、悔しい気持ちです。(ドイツ選手にはテクニカルスペリオリティ負けだったが)最初にビッグポイントを取られて、流れが相手にいきました。そのドイツ選手がアメリカ選手と競った試合をして優勝し、そのアメリカ選手に自分が勝ったので、実力差があったというより、スタイルが合わなかったというか…。パワーの差は感じました。負けても3位決定戦が残っていたので、メダルは持ち帰る、という気持ちでした。この結果に満足しない。U20へ上がっても日本代表になれるように頑張り、今回のリベンジをしたい」