日本レスリング協会公式サイト
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2024.09.18

《大会報告》9.8~13ワールド・ノマド・ゲームズ(アスタナ・カザフスタン)

 

監督:田中弘済(大神工業株式会社=写真もすべて提供) 


 9月8日(日)~13日(金)にカザフスタン・アスタナで行われた第5回ワールド・ノマド・ゲームズに、5選手を派遣した。

 「ワールド・ノマド・ゲームズ」は、主に中央アジアを中心に行われている民族スポーツに特化した国際的なスポーツ競技会。今大会は「カザフスタン共和国観光・スポーツ省」や「UNESCO」、世界の伝統的なスポーツ・文化の保護や認知度向上及び普及を目指す「世界エスノポーツ連盟(World Ethnosport Confederation)」など主催のもと、世界レスリング連合(UWW)が認めているレスリング・スタイルである「カザフ・クレシ(半袖柔道)」や「アリシュ(ベルトレスリング)」などを含め21種目の民族スポーツ競技が実施された。2022年に行われた第4回大会(イズニク・トルコ)以来、開催地を移して2年ぶりの実施となった。

▲第5回ワールド・ノマド・ゲームズ開会式風景写真

 本年3月下旬にカザフスタン北部で発生した記録的な洪水による被害の影響で一時は開催も危ぶまれたが、関係者の尽力により無事に挙行され、主催者発表によると89ヶ国から2,800人もの選手が参加した。

 日本はこれまでメダル獲得には至っていないものの、世界のさまざまな民族レスリング競技に参加してきた。今大会も4種目に挑戦し、上位入賞を狙った。

▲開会式での日本チーム

 海外ではレスリングや柔道などと並行して自国の民族レスリング競技に取り組むことが一般的。さまざまな格闘競技にチャレンジすることに抵抗がなく、本大会には多くの国の強豪選手が出場した。なお、閉会式では2年後の2026年にキルギス共和国で第6回大会を開催することがアナウンスされた。

 日本選手団及び出場競技、スケジュール、結果、監督・コーチ・選手による総括は次の通り。


役員(所属/バックボーンの競技)

【監 督】田中弘済(大神工業株式会社/レスリング)
【コーチ】江口尚太郎(民族格闘技研究所/相撲)


選手(所属/バックボーンの競技)

▼天野雅之(中央大学職員/レスリング)
▼黒崎辰馬(神戸医療未来大学/レスリング)
▼嶋田元紀(東京都交通局/柔道)
▼福井裕士(FAITH/レスリング・柔道)
▼松山達哉(大体大浪商コーチ/レスリング)


出場競技

カザフ・クレシ(カザフスタン)/アシートマリ・アバ・ギュレシ(トルコ)/アリシュ(キルギス)※クラシックスタイルのみ/コレシュ(ロシア)


スケジュール・結果

《9月9日(月)》
【カザフ・クレシ】(半袖柔道)
黒崎辰馬:74kg級 予備戦敗退

《9月10日(火)》
【カザフ・クレシ】(半袖柔道)
嶋田元紀:82kg級 予備戦敗退
福井裕士:100kg級 ベスト16

《9月11日(水)》
【アリシュ クラシックスタイル】(ベルトレスリング)
黒崎辰馬:70kg級 ベスト16
松山達哉:80kg級 予備戦敗退
嶋田元紀:90kg級 予備戦敗退
天野雅之:100kg級 ベスト16

《9月12日(木)》
【コレシュ】(ベルトレスリング)
松山達哉:75kg級 5位

【アシートマリ・アバ・ギュレシ】(伝統的衣装を着用した相撲)
黒崎辰馬:70kg級 予備戦敗退
嶋田元紀:80kg級 ベスト16


役員・選手の声

 ■田中弘済監督「選手は慣れない環境のなか、よく頑張ってくれたが、結果を残すことが出来ず責任を感じている。勝つためには各競技に対する強化計画が重要で、特に日本ではこれらの競技がひとまとめに民族格闘技として認識されることが多いため、その特性を理解し、経験者が競技に適応できるような取り組みが必要だと強く感じた。

 カザフ・クレシは、半袖の柔道であり、柔道の経験が活かされる。一方、アリシュはグレコローマンスタイルのレスリングに近く、腰に巻いた帯を持ち合って相手を投げる競技で、レスリングの経験が有利に働く。しかし、日本ではこれらの競技に対する認知度が低いため、ルールを明確に発信し、競技ごとに経験者が参加しやすい環境を作らなければならないと再認識した。

 私自身、レスリング競技の出身で、競技成績は思うように残せなかったが、ベルトレスリングという競技に挑戦し、アジアインドアゲームズで2位を獲得することができた。レスリングや柔道の経験者であれば、これらの競技とマッチして世界で戦える選手が日本には多く存在すると確信している。そのため、情報発信を強化し、競技人口を増やすことが重要である。

 また、国際大会でのメダル獲得は、日本がUWW認定競技に真剣に取り組んでいることを示し、さらには日本レスリング界の発展にも寄与すると信じているので、今後も高い目標を掲げ、努力を続けていきたい」

▲トルコ伝統レスリング連盟の役員と田中弘済監督(左)、江口尚太郎コーチ


 ■天野雅之(中央大学職員)「ワールド・ノマド・ゲームズでは、アリシュ競技(ベルトレスリング)に出場させていただきました。現地では、歩いて会場に向かっている最中にも「JAPAN!」「こんにちは」などと声をかけてくれたり、たくさんの方と写真を撮るなど、カザフスタンを挙げての歓迎を感じました。他国の選手と一緒に練習をしたり、他の競技の選手と話したり、まだまだ知らない世界を見たり感じたり、非常に有意義な時間を過ごすことができました。

 昨年のアジア選手権の結果(2023アジア選手権2位)を知って、沖縄相撲をやっている方から連絡があり、一緒に練習するなど、日本でも練習を積みました。コンディションも良く、優勝目指して臨みましたが、満足いく結果は残せませんでした。ただ、「勝ち」はもちろんですが、「負け」から学ぶことは多く、積極的に攻める選手が優勝まで勝ち上がっていたのが印象的で、ベテランとなった今でも日々勉強で、次の大会に向けてどうしたらいいのかを考える毎日です。

 この競技への参加を契機に、新しい交流が生まれたり、そもそもレスリングをもっと深めることにもつながったと思います。引き続き、ベルトレスリングにも積極的に参加し、日本代表として恥じない試合をすると共に、多くの方々にこの競技を知ってもらい、参加してもらいたいと思っています。今回の大会に参加にあたり、関係者の皆様に深く感謝申し上げます」

▲キルギスのベルトレスリング、アリシュに挑んだ天野雅之


 ■黒崎辰馬(神戸医療未来大)「ワールド・ノマド・ゲームズは、遊牧民の文化や競技を保存・普及するために開催されており、今回もカザフスタンを中心とした遊牧民族の文化に触れることができました。今大会には前回大会には参加していなかった国の選手も参加しており、大会の盛り上がりを感じました。

 私はカザフ・クレシ、アリシュ、アシートマリ・アバ・ギュレシの3種目に参加しました。それぞれルールや競技環境などが異なり、競技に参加するだけでも文化と競技の繋がりを実感することができ、非常に有意義な体験でした。前回大会に続く出場でしたが、他国は新しい選手が台頭してきており、組み際の技術や相手の動きを読む力など、技術の改善が必要と感じたため、今後の競技活動に活かしたいと思います。今回の大会に参加する機会をいただき、関係者の皆様に深く感謝申し上げます」

▲トルコの伝統競技、アシートマリ・アバ・ギュレシに挑んだ黒崎辰馬


 ■嶋田元紀(東京都交通局)「今大会では、カザフ・クレシ、アリシュ、アシートマリ・アバ・ギュレシの計3種目に出場しました。各競技におきまして羽織る物や足場が異なり、その地域の文化にも触れることができました。アシートマリ・アバ・ギュレシにおきましては芝生の上で競技を行うという始めての経験をしました。様々な服装や環境での攻防を研究し、今後に生かしていきます。

 世界にはまだまだ沢山の民族格闘技があると思います。選手として各国の民族格闘技を体験、理解し広めていきたいです。最後になりますが、ご協力いただきました関係者の皆様、誠にありがとうございました」

▲キルギスのベルトレスリング、アリシュに挑んだ嶋田元紀


 ■福井裕士(FAITH)「今回、民族スポーツのオリンピックと言われている「ワールド・ノマド・ゲームズ」に初参加させて頂き、その規模の大きさとこれからの人類の発展模様を身体全体で感じ取ることができました。私自身カザフスタンの国技であるカザフ・クレシ(半袖柔道)を専門に取り組んできましたが、春に左膝前十字の再建手術を行い、術後5ヶ月で迎える今大会に出場することは厳しいと思っていました。しかしワールド・ノマドにはどうしても参加したいという強い気持ちがあり、厳しいリバビリを自分に課し、その結果、試合をできる筋力筋量まで戻して出場することができました。

 試合では初戦を得意技である立ち一本背負いでで勝利することができましたが、2回戦で今大会3位となったイラン選手に優勢負けとなりました。カザフ・クレシでは柔道との二刀流で競技を行う選手が多く、トップ選手になると柔道の国際大会でも活躍する選手が多数いるのが現状です。しかしながら半袖であること、組手の制限がないこと、膝をついてはいけないこと、寝技がないことからカザフ・クレシのルールに適した技術を持つことが1番重要と言えると思います。

 私自身も2年後の第6回ワールド・ノマド・ゲームズ(キルギス)に向けてこれから稽古と肉体強化に全力で努めていきたいと思います」

▲カザフスタンの国技、カザフ・クレシに挑んだ福井裕士


 ■松山達哉(大体大浪商コーチ)「今回、初めてワールド・ノマド・ゲームズに参加をして、アリシュとコレシュに出場しました。アリシュでは、最初の組み際の練習を中心に行なってきました。初戦で世界トップ選手と試合でしたが、組み際の圧力、試合展開など全ての面での差があり世界の壁を感じました。コレシュでは、アリシュよりも組む距離が近く、海外選手特有のパワーをより感じました。

 これまでのレスリング経験を活かして闘いましたが、3位決定戦で負けてしまい結果は5位。メダルを目の前にすると悔しいですが、とてもいい経験となりました。最後に、民族格闘技を経験させて頂いたり、各国の選手と交流を深める場に出場させていただき、関係者の皆様に感謝しております。この経験を様々な方に伝えられるよう活動したいと思います。ありがとうございました」

▲ロシア・タタールスタン共和国の伝統競技、コレシュに挑んだ松山達哉


【第5回ワールド・ノマド・ゲームズ 大会公式HP】
https://worldnomadgames.kz/en







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