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2024.09.23

【特集】2028年へ向けて始動した日体大、オリンピック優勝で天狗になる懸念は「この環境の中では絶対にありません!」(松本慎吾監督)-(下)

 

《上から続く》

 パリ・オリンピックでOBと学生選手が金メダル5個を取った日体大。すでに2028年ロサンゼルス・オリンピックへ向けての闘いをスタートしており、パリの再現を目指す。指揮する松本慎吾監督に聞いた。


今でも選手と練習、体を張っての指導を続ける

--日本が金メダル8個を取ったパリ・オリンピックですが、日体大のOBと学生選手で金5個です。自分の指導方法に間違いはなかった、と感じたのではないでしょうか。

松本 2009年から指導を始め、15年が経ちました。ナショナルチームのコーチを引き受けた期間は、2016年リオデジャネイロと2021年東京の銀メダルが最高でした。その結果を受けて今回の結果があったのかな、と思います。その間、指導者としての勉強もしてきました。現役時代からを通じて日体大の藤本英男・前部長や自衛隊の伊藤広道監督、指導に回ってからは2012年ロンドン大会までの佐藤満強化委員長などで、そこから学んだ指導方法を今の時代に合ったものに変えて実行してきたことが、この成果に表れたと思っています。

--選手の気質や社会の目も変わっていますよね。昔は、厳しくされ、その反発心がエネルギーになったケースもありましたし、活字にはできないようなことも行われていました。今は、“しごき”と思われるようなことはできないし、手足は絶対に出してはならない。ご自分の選手時代のやり方では駄目、といった難しさがあったのではないしょうか。

松本 (苦笑)。まだ体が動くので、選手と一緒に練習しています。口だけではなく、体を張って選手を育てるという方針は貫いてきました。そうした練習の中で選手が育ち、選手が世界との距離を身近に感じ、世界チャンピオンを現実的に感じてくれたと思います。私が現役時代だったときより、「世界で勝てる」と思って、世界一を身近なものとしてとらえていることは感じます。

▲46歳になったが、学生王者より強い、とまで言われる松本慎吾監督。体を張った指導の成果が出た

--以前の、特にグレコローマンは、アジアを2度制した松本監督や世界2位の笹本睦コーチは別として、心底から「世界一になる」と思っていた選手は少なかったように感じます。今回の文田健一郎選手や日下尚選手、結果は出せませんでしたが曽我部京太郎選手からは、金メダルを目指す本気度がひしひしと伝わってきました。

松本 その思いは感じました。オリンピック前、味の素トレーニングセンターでの代表チームの直前合宿へ行って、2日間でしたが選手と練習もしました。心身ともに最高の状態へ持っていっていることを感じ、これなら大丈夫、と思って送り出しました。大会中は(時差の関係で)真夜中でしたが1試合ごとにチェックし、応援していました。

樋口黎との連日の練習で実力をアップさせた清岡幸大郎

--全体のレベルが上がったことが、金8個の結果につながったことは間違いないですね。

松本 それは、はっきり言えます。これで満足するのではなく、この流れが下の世代につながっていき、さらに全体が底上げをすることで、2028年ロサンゼルス大会、2032年ブリスベン大会へとつながり、これ以上の結果が出ると思います。全体の底上げを、今一度考えていく必要があります。

▲7月の草津合宿で練習を見守る松本監督(右端)=撮影・保高幸子

--今回の日体大の金メダリストの中で、樋口黎、文田健一郎、日下尚、藤波朱理の4選手は、過去の実績から優勝を予想できたと思いますが、世界選手権もアジア選手権も出場経験のなかった清岡幸大郎は、正直なところ、どうだったのでしょうか? 

松本 学生のときから樋口黎とほぼ毎日、練習していました。練習相手の強さを自分の強さにし、レスリングへの取り組みも変わってきていました。階級は違っても世界トップ選手との質の高い練習の中から実力をつけており、そこからの自信を出してくれれば、やってくれると信じていました。日下も、私や屋比久翔平(2021年東京大会銅メダル)との毎日の練習の中で世界との距離感を感じ、それを縮めることで自分のレベルを上げていったのだと思います。

--清岡選手の反対ブロックからは、2022年世界王者のイラン選手が出てきました。一番、出てきてほしくない選手だったと思いますが、そのときのお気持ちは?

松本 確かに、イラン選手の決勝までの勝ち上がりの試合を見て、強い選手だと思いました。でも、決勝は完全に清岡のペースでしたね(笑)。清岡らしい試合をやってくれました。

レベルは上がったが、さらに体力の向上が必要な重量級

--77kg級で勝った日下尚選手は、日本史上最重量級のオリンピック王者となりました。重量級のレベルアップも着実に進んでいると考えていいでしょうか。

松本 進んではいますが、もっと体力レベルを上げていかないとならない状況ではあります。80kg代、さらに90kg代でも勝てるよう、少しずつレベルを上げていき、各選手のモチベーションを上げていくことが課題になると思います。

▲2028年ロサンゼルス・オリンピックへ向かうチームを指揮する松本監督

--今回金メダルを取った5選手の今後については、何か聞いていますか?

松本 樋口と文田は、とりあえずゆっくりしてもらいます。樋口はアメリカからコーチの声がかかっています。文田は、休養して気持ちが盛り上がってきたらマットに戻ると思いますが、ともに本人次第。私からは何も言いません。レスリングを続けるなら、引き続き学生の手本となるような活動をしてほしいと思います。

--若い3選手は、いかがでしょうか?

松本 日下と清岡は10月にドイツのブンデスリーガ(リーグ戦=昨年、日下が参戦)に行く予定です。藤波も、間もなく次のオリンピックへ向けて始動すると思います。

--オリンピックで金メダルを取ったことで、天狗になったりする懸念はないでしょうか。

松本 日体大のこの環境の中では絶対にありません! 若い選手が次々と出てきて、突き上げてきます。若い選手を育て、底上げをしっかりやっていきます。

だれもが気持ちが盛り上がっていたインカレとU20世界選手権

--次世代の底上げ、という意味で、オリンピックの約2週間後にあったインカレ(全日本学生選手権)での選手の気持ちの盛り上がりはどうでしたでしょうか(日体大はグレコローマンで最多の4階級、フリースタイルで2階級、女子で3階級、3スタイル合計でも最多の9階級で優勝)。

松本 先輩たちがパリであれだけの成績を残した、という気持ちをもって臨んでいたと思います。インカレの直後にあったU20世界選手権(スペイン)に照準を置いた選手もいましたし、だれもが気持ちは盛り上がっていたと思います。

▲全日本学生選手権で優勝した髙橋海大(右)。パリでの日体大選手の勢いを引き継ぎ、来月、世界王者に輝けるか

--後に続く選手へ刺激を与えることになり、今の日本レスリング界は最高の状態で回転しているのではないでしょうか。

松本 そうですね。このあと国民スポーツ大会、全日本大学グレコローマン選手権、全日本大学選手権、海外ではU23世界選手権、非オリンピック階級の世界選手権と続きます。自分たちもやればできる、という気持ちを持って頑張ってほしい。







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