(文=布施鋼治)
2028年のロサンゼルス・オリンピックに向って一直線! 今夏のパリ・オリンピックで2人の金メダリストが誕生した三恵海運。負けてなるものか、とばかりに同社所属の男子フリースタイル86㎏級の髙橋夢大が燃えている。10月は国民スポーツ大会とU23世界選手権が控える。
「連戦になるけど、しっかり調整しようという感じです」
U23世界選手権の開催地アルバニアでは、続いて非オリンピック階級の世界選手権も開催され、弟の髙橋海大(日体大)がU23世界選手権74kg級に、非オリンピック階級の世界選手権は79㎏級に、それぞれ出場する。
「最近は弟の方が結果を残していて、今年のアジア選手権でも優勝している。正直、焦っている部分もあります。気持ちをいったん落ち着かせて、4年後のロサンゼルスに向け少しずつギアを上げていきたい」
発奮材料は弟の活躍だけではない。今春まで髙橋も在籍し、いまも練習の拠点とする日体大からは女子も含めると5人もの金メダリストを輩出したことも大きな発奮材料になっている。
「取るとは思っていたけど、ここまですごいとは思っていなかった。でも、同じマットで練習している選手が目標を達成していることを考えたら、自分にも可能性があることを実感できました。目の前に『こういうふうにすればいいんだ』という見本があるわけですからね。最高の練習環境だと思います」
兵庫県神戸市に本社を置く社員13人の三恵海運からは、パリで男子グレコローマン77㎏級の日下尚と男子フリースタイル65㎏級の清岡幸大郎が金メダルを獲得した。選手は5人。
「所属の半分近くの選手がオリンピック・チャンピオンになったことは誇らしい。その一方で、同じ競技者として悔しい部分もある」
中でも、清岡は同期で今春そろって卒業。現在はマンションをシェアして住む仲だ。髙橋は「手本となるところは見習いたい」と語る。
「僕は、時に夜ふかしをするときもあるけど、清岡は決まった時間に寝ている。彼はオンとオフの切り替えが上手で、休日にはけっこう外出してリラックスしている。自分は、どちらかというと動くのが面倒くさくなって、オフでもずっと家にいて、リフレッシュするのが下手。清岡を見ていると、レスリング以外のところも大事なのかなと思いますね」
そんな髙橋は、ひとつだけ決めていることがある。清岡が獲得した金メダルが入っている袋は絶対触らないようにしていること。「首にも絶対かけません。自分の金メダル以外はいらないと思っているので」
髙田肇社長(大体大レスリング部OB)からは「悔しいだろうけど、そんなに焦るな」と釘を刺されている。「4年後のロサンゼルスで勝てばいい」
髙橋は長期的な青写真を描く。「清岡は去年の天皇杯(全日本選手権)で乙黒拓斗選手に勝って、その勢いでオリンピックまで行った。最後に勝つことが必要。最後に勝てなかったら、意味はない。実際、そういう選手を何人も見ているので、最後に勝てる選手になりたい」
京都・網野高在籍の2019年にシニアの世界選手権(カザフスタン)に初出場を果たすなど、髙橋は早い時期から将来を嘱望された存在だった。レスラーとしての特色は高校時代から突出していたフィジカル。髙橋も「自分はパワータイプ」という自負がある。
「細かいことは苦手というのもあるけど、ある程度自分のレスリングの形はできてきたと思う。ただ、細かい部分で取れなかったりすることが多いので、そこはより進化しないといけない」
今年5月の明治杯全日本選抜選手権では、ノルディック方式の予選リーグ、決勝トーナメントともに2022年U23世界王者の白井達也(佐賀県スポーツ協会)に辛酸をなめさせられた。それでも、髙橋は「自分は負けて強くなっている」と語気に力を込めた。「勝ち続けて成長できればいいと思うけど、そんなにうまくはいかないでしょう。これからも勝ったり負けたりすることもあるだろうけど、試合を重ねるごとに自分が成長していけたらいいと思っています」
日本人離れしたフィジカルで世界をつかめ。