2013年から東日本学生リーグ戦で6連覇を達成し、2015・16年は全日本大学選手権も制して大学最強を謳歌していた山梨学院大。最近は日体大の躍進で優勝から遠のいていたが、今年6月の東日本学生リーグ戦で優勝。11月9~10日の全日本大学選手権(大阪・堺市金岡公園体育館)で、8年ぶりの団体戦学生二冠のチャンスが巡ってきた。
8月の全日本学生選手権(インカレ)では4階級で優勝を果たした。57kg級の勝目大翔(2年)、61kg級の須田宝(2年)、70kg級の森田魁人(4年)、86kg級の五十嵐文彌(3年)。
65kg級で優勝する実力は十分ながら決勝で不覚を喫した荻野海志(3年)は、U23世界選手権で銀メダルを取って昇り調子。74kg級で3位だった鈴木大樹主将(4年)は国民スポーツ大会を制し、全日本大学グレコローマン選手権で2位入賞と勢いを持つ。125kg級3位だったアビレイ・ソビィット(3年)はインカレのグレコローマンで優勝するなど闘いの幅を広げている。戦力は、この大会の5連覇を目指す日体大を上回っていると言っていい。
高橋侑希コーチは「優勝を狙える自信…、とまでは言いませんが、選手はそろっています」と話す。大言壮語しないのは、昨年6階級で決勝に進み、圧倒的有利で最終日を迎えながら、最後の試合で優勝を逃した忘れられない経験があるからか。「あの失敗は繰り返さない。勝つための練習はさせてきた」ときっぱり。
追い風はU23世界選手権と非オリンピック階級の世界選手権。前者で荻野海志が銀メダル、OBの青柳善の輔が銅メダル、後者で小野正之助が金メダル、青柳が銀メダルと、このマットで汗を流している選手が続けざまに好成績を上げた。「チームの士気は高まっています」と言う。
以前と比べて違うのは、二番手でも一番手に匹敵する実力を持っている階級が増えたこと。レギュラー選手がけがで出場を断念することになっても、優勝を期待できる階級が出てきたと言う。
61kg級は世界王者に輝いた小野が正エントリーだが、実は足首はく離骨折、骨挫傷、靭帯損傷のけがをしての闘いだった。この大会は大事をとることが予想されるが、副選手の須田は全日本学生選手権の王者。今大会の優勝を十分に目指せる。
全日本学生選手権の70kg級は森田と冨山悠真(3年)が決勝を闘っている。今大会ではともに74kg級にエントリーしているが、森田が直前に負傷しても、冨山に同じだけの成績を期待できる状況。高橋コーチは「レギュラーが抜けたときの穴が、以前より少なくなってきました」と、層が厚くなったことを感じている。
チームを支えるのは、中量級の2人の4年生。チーム事情で、ともに本来より上の階級での闘いとなる。山梨学院大の最後の団体優勝が2020年全日本大学グレコローマン選手権なので、昨年までの3年間、団体優勝を経験していなかった。最後の学年は2冠を取って“3年間の不振”を取り返したい。
鈴木主将はリーグ戦優勝をもたらし、今回が主将として最後のけん引。「雰囲気はよく、順調に仕上がっています」とチームの状況を説明。個人でも前述の通り結果を出しており、「最後にもう一度優勝したい」と燃えるとともに、後輩に刺激を与えている。
インカレ70kg級を制した森田副主将は「リーグ戦の優勝で、より活気が出ています」と話す。74kg級の闘いは7月の東日本学生選手権(春季)で経験済み。日体大は全日本選抜選手権で優勝している山下凌弥がエントリー。自身と同じく本来は70kg級の選手で、9月のU20世界選手権で優勝しており、どこまで伸びるか分からない選手。卒業後もレスリングを続ける予定の森田にとって、負けられない相手だ。
下級生も57kg級の勝目、61kg級の須田、65kg級の荻野、86kg級の五十嵐のインカレ1、2位の選手が優勝を期して出撃する。
57kg級の勝目は、インカレでも準決勝と決勝で日体大の選手をともに無失点のテクニカルスペリオリティで破っての優勝。ただ、4月のJOCジュニアオリンピックでは松村祥太郎(専大)に敗れており、彼がエントリーしていることが気がかり。松村は2021年インターハイ決勝で敗れている相手だからだ。翌年のインターハイではリベンジし、直近の国民スポーツ大会でも勝っているので苦手意識があるとは思えないが、勝ったり負けたりのライバルとの闘いに、ここぞというときに勝ち抜けるか。
86kg級の五十嵐は、インカレの全4試合を無失点のテクニカルスペリオリティで勝つ強さを見せた。日体大は79kg級全日本選抜王者の髙橋海大をこの階級にエントリーし、五十嵐を倒す腹積もりだったようだが、U23世界選手権で負傷し、大事をとる可能性が高い。山梨学院大にとっては、12点(優勝)の可能性が高くなる追い風が吹きそうだ。
だが、対抗得点で「0点」(9位以下)があると、どう転ぶか分からないのが、この大会の面白さ。これまでにも下馬評を覆す結果が何度も起こっている。
今年の場合、125kg級に向かうところ敵なしの吉田アラシ(日大=97kg級学生王者)がエントリーしたことで、どんな“どんでん返し”が起こるか分からない可能性が出てきた。昨年優勝で今年のインカレも制したバトバヤル・ナムバルダグワ(育英大)、ソビィット、吉田が同じブロックとなり、ソビィットが僅差であっても負けて敗者復活戦に回れないとなれば、この階級の得点が「0点」か、それに近くなることもありうる。
97kg級にインカレ86kg級3位の増田大将(2年)を起用するチーム事情も不安材料のひとつ。高校時代に全国大会優勝なしからインカレ3位が示すように急成長を遂げている選手だが、昨年は79kg級で闘っていた選手。97kg級の壁にはね返されて上位入賞できないことも考えられる。
不安は発奮につながる。「勝負の世界は何があるか分からない」として、「確実」などという言葉は口にしない高橋コーチは、「日本一の練習をしてると思っているので、うちの学生が勝つと信じています」と部員を全面的に信頼している。山梨学院大が盤石の布陣で5年ぶりの大学日本一に挑む!