(文・撮影=布施鋼治)
日体大は一昨年、昨年と東日本学生リーグ戦、全日本大学グレコローマン選手権、全日本大学選手権と団体戦を制し、2年連続グランドスラムを達成した。今年は、東日本学生リーグ戦は山梨学院大に、全日本大学グレコローマン選手権は育英大に優勝を奪われてしまうなど、調子はいまひとつと言わざるをえない。
残るは11月9~10日に大阪・堺市で行われる全日本大学選手権のみとなった。松本慎吾監督は「(直近で行われた)グレコ選手権も取り切れなかったので、雰囲気はあまりよくない」と本音をもらす。「ただ、レスリング界全体の発展を考えたら、一強、二強の時代が長く続くことはよくない。三つ巴以上になって切磋琢磨すれば、全体の底上げになりますからね」
今大会で優勝すれば、大会5連覇を達成することになるが、日体大の湯元健一コーチは「(東日本学生)リーグ戦で負けた時点で、(進撃が)リセットされた感がある」と話す。「いくら計算しても、今年は戦力的に山梨学院大の方が有利だと思う。でも、ウチが取るべきところで取っていけば、勝てると踏んでいます」
最大のキーマンは65㎏級にエントリーした西内悠人(2年)だろう。2022・23年U20世界選手権、2024年U20アジア選手権で優勝している実力者で、今年は全日本学生選手権と国体を連続で制する強さを見せている。
対抗馬は、インカレ決勝で大接戦を展開した末に西内が勝った荻野海志(山梨学院大3年)。荻野は10月末に開催されたU23世界選手権で準優勝に輝いたばかり。接戦が予想されるが、湯元コーチは「もう一度、荻野選手を倒して学生一を証明してほしい」と期待を寄せる。
「西内が勝てば、山梨の士気は一気に下がる。最近、西内はこの階級でも負けないフィジカルを作っている最中。午前中の練習から休みの取り方も含め、よく考えてやっています」と言う。
他の階級はどうか。57㎏級は高田勇(2年)か山際航平(4年)で勝負をかける。高田は8月の全日本学生選手権で3位入賞を果たした成長株。一方の山際はグレコローマンを主戦場としながらフリースタイルも強く、全日本学生選手権は決勝まで進出(勝目大翔=山梨学院大=に敗れて2位)。
「正選手の登録は高田だけど、直前になって変えるかもしれません。いずれにせよ3位以内にしっかりと入ってもらいたい」(湯元)
70㎏級は主将の田南部魁星(4年)がエントリーした。湯元コーチは「本来なら65㎏級で田南部という考えもありましたけど、団体戦ということを考えたら、やはり西内を65kg級で起用することが最も有効な手段だと思いました。田南部も『僕は70で勝ちます』と積極的です。田南部は勢いがあって、思い切りレスリングができる。彼には(優勝の)12点、最低でも(3位の)6点を取ってもらいたい」
当の田南部は「インカレで負けてしまったので(西内に2-2)、今回はチャンスはないのかと思ったけれど、もらうことができた」と喜ぶ。「今、チームはちょっと低迷しているけど、主将としてチームを勢いづけて優勝できたらいい」
74㎏級には山下凌弥(2年)を出す予定。山下は千葉・日体大柏高時代は全国大会無冠ながら、今年6月の全日本選抜選手権74kg級を制し、9月のU20世界選手権は70kg級で優勝した成長株。湯元コーチは山梨学院が鈴木大樹(4年)ではなく、森田魅人(4年)がエントリーしてきたことに注視する。「いまの山下には勢いがある。勢いで森田選手を倒してもらいたい」
79㎏級には、昨年1年生王者に輝いた神谷龍之介(2年)に任せた。「山梨の鈴木選手と当たることになるだろうけど、ここはきっちりと優勝してもらいたい。去年も優勝してくれたので、今年も神谷が取る点数(12点)を算段しています」
86㎏級は髙橋海大(3年)が一番手ながら、10月のU23世界選手権と非オリンピック階級の世界選手権に連続出場して負傷。大事をとる状態との情報も伝わってきており、松本監督も湯元コーチも起用には慎重。副選手として登録している堀北一咲望(4年=グレコローマン77kg級全日本王者)の出場になるかもしれない。
97㎏級は甫木元起(1年)に期待をかける。「日大の吉田アラシ選手が階級を上げて(125kg級に)エントリーしたので、優勝を狙ってもらいたい。この大会では以前にも1年生が優勝するなど下級生の王者が生まれやすい」
取材時、甫木は昨年のU23世界選手権優勝者の白井達也(佐賀県スポーツ協会)の胸を借りる形でいい汗を流していた。
最重量級の125㎏級には、丸山政陽(2年)が出陣する。この階級は昨年優勝で今年のインカレも制したバトバヤル・ナムバルダグワ(育英大)と、インカレ・グレコローマン優勝のソビィット・アビレイ(山梨学院大)が2強と言われ、そこに吉田アラシ(日大)が加わることで、優勝は厳しい状況かもしれない。
湯元コーチは丸山に「何点でもいいから稼いでほしい」と背中を押す。「まだ荷が重い部分もある一方、今夏のU20アジア選手権ではいいタックルを取りかけたりするなど、闘い方の部分では成長を感じている。まだ強化の途中。強くはなっています」
厳しい闘いが予想される中、日体大は復活の狼煙(のろし)をあげることができるか。