2024年全日本大学選手権は、6月の東日本学生リーグ戦を制した山梨学院大が初日で全8階級の決勝進出を決め、早々と優勝を確定させた。最終日の決勝のマットに上がった選手は、伸び伸びとした闘いを展開。5階級で優勝を決め、5年ぶりのチーム優勝を引き寄せた。
小幡邦彦監督は、初日で優勝を決めたことに「出来すぎかな、とも思いました」と苦笑いしながら、「これまで、絶対の自信があっても負けたときもありました。そうした経験から、大会前には気を抜かないで闘うことを選手に伝えました。しっかり伝わったと思います」と、相手がだれであっても油断しない闘いができたことを振り返った。
リードされて試合が進みながら、中盤で、あるいは後半に逆転した試合もあり、選手の勝利への執念を実感。腰を痛めていた57kg級の勝目大翔と、本来より2階級上の97kg級に起用した増田大将(2年)が、ともに決勝進出を果たす奮闘を見せてくれ、「どの選手も成長している。頑張ってくれました」と成長を称えた。
2年前のこの大会は、日体大に5階級の優勝を許し、大学対抗得点で21点もの差をつけられたが、65kg級で荻野海志、86kg級の五十嵐文彌という1年生チャンピオンが誕生し、浮上の芽があった。基盤ができてから優勝できるチーム力をつけるまで、2年はかかるということか。
今夏はパリ・オリンピックで日本レスリング界が熱く燃えたのに、山梨学院大からはOBを含めて出場する選手がいなかった。同監督は「悔しい思いが伝わってきた。学生の大会は絶対に勝つ、という気持ちが充満していた」と言う。
評価するのは、試合に出た選手だけではなく、2番手、3番手で頑張ってくれた選手に対しても同じ。レギュラー選手と控え選手の差がこれまで以上に接近しており、それがチーム力をアップさせてくれたと分析。「だれもが本当に頑張ってくれたと思います」とねぎらい、チーム一丸となっての優勝であることを強調した。
自身はナショナルチームの男子フリースタイル・ヘッドコーチとしてチームを不在にすることも多かった。この大会の前にもU23世界選手権から非オリンピック階級世界選手権(ともにアルバニア)に帯同しており、直前の練習をしっかり見ることができなかったが、高橋侑希コーチが抜かりなく各選手を指導してくれた。「保護者や学校の関係者など、いろんな人に支えられた優勝です。皆さんに感謝の気持ちしかない学生二冠です」と話した。
主将としてチームをけん引した鈴木大樹主将は、本来より1階級上の79kg級に出場。2連覇を目指す神谷龍之介(日体大)に押されながらも決定的な技を許さず、ラスト35秒に0-2から2-2に追いつき、ラストポイントによって勝利。主将の役目を十分に果たし、目を潤ませながら、「目標が達成できて本当によかったです」と震える声で喜びを表した。
10月下旬のU23世界選手権と非オリンピック階級世界選手権(ともにアルバニア)で山梨学院大の学生選手とOB選手が活躍してくれ、大会前からムードはよかった。この大会でも初日に優勝を確定するなど波に乗っていたのは確かで、その熱量が自身を押し上げたことは確かだろう。
だが、1階級上の昨年王者との闘いは簡単にはいかず、試合中は「力の差を感じた。(勝つのは)厳しいかもな、と感じた」そうだ。勝利を決めたのはスタミナだったと振り返る。「朝練習をしっかりやってきた成果でしょうか、最後までスタミナが持ち、自分のレスリングを貫くことができました」と言う。
6月のリーグ戦は、自身は負けてしまった中での優勝だっただけに、勝っての団体優勝に感慨もひとしお。選手生活の最後となる12月の天皇杯全日本選手権は本来の74kg級に戻し、真っ赤に燃える腹積もりだ。
チームは来年、荻野、五十嵐、今大会は負傷で不出場だった61kg級世界王者の小野正之助が残るので、2年連続の二冠獲得を目指して燃えることは言うまでもないが、今年の総決算として全日本選手権に全力注入する。
小幡監督は「いい流れで来ている。(次のオリンピックまでの)4年間はあっという間。代表が決まるまでは3年ちょっと。休んでいる時間はない。一人でも多くの選手をオリンピックに出すために強化していきたい」と、変わらない努力を誓った。