日本レスリング協会公式サイト
JAPAN WRESTLING FEDERATION
日本レスリング協会公式サイト
2011.08.23

【特集】世界選手権へかける(7)…女子48kg級・坂本日登美(自衛隊)

(文=布施鋼治)

 「このままじゃロンドンでは勝てない」-。昨年、モスクワで行なわれた世界選手権の女子48kg級で優勝した直後、坂本日登美(自衛隊=右写真)は、喜ぶ一方で気持ちを引き締めた。かつて自分が闘っていた51kg級とは全く違う怖さを肌で感じたからだ。

 オリンピックで実施される階級とされない階級では、厳しさが違っていた。51kg級では対戦相手にポイントを一点も与えないパーフェクトな試合運びで知られた坂本だったが、この大会では1ピリオド取られた試合があったことも引っかかった。

 「オリンピックを経験している選手が多いから、技術面にもすご味を感じた。対戦相手の勝ちたいという気持ちもひしひしと感じました。それまでは、外国人選手の方がやりやすいと思っていたけど、考えを改めるしかなかったですね」

■五輪実施階級の厳しさは予想以上だった

 その後、11月のアジア大会(中国)では準決勝でソ・シムヒャン(北朝鮮)にタックルを決められて敗北。国際試合での連勝記録は「70」でストップした。坂本は最初から気持ちで負けていたと振り返る。(左写真=アジア大会でソ・シムヒャンに敗れた坂本)

 「世界選手権までは減量も結構シビアに徐々に落していた。でも、アジア大会の時は48kgまで落すのも3回目だったから、大丈夫だろうとタカをくくっていた。そんな過信が足元をすくったんだと思います」世界チャンピオンになったことで、対戦相手のマークがきつくなったことも響いた。51kg級でやってきたことが通じない。坂本には自分のレスリングに対する迷いが出てきた。

 「減量さえうまくいけば48kg級でも通用すると思っていた。でも、アジア大会で負けてからは、練習も思うようにいかなくなってしまった。こんなにオリンピックを目指すことが大変だとは思わなかった」。

■腰痛を乗り越え、支えてくれる人のために

 今年4月の全日本選抜で優勝した直後には挫折しかけたこともある。思い通りにいかないことが増えてきたからだ。「日本でもポイントをとられたりしてね。51kg級の時の自分は何だったんだろうと思いましたよ」

 昨年の全日本選抜選手権で初めて48kg級に挑戦した時から、身体のメカニズムにも変化が現われた。腰痛に悩まされるようになったことだ。味わったことのないけがだった。そのせいで気持ちがネガティブになることもあったが、今では「うまく付き合っていくしかない」と前向きにとらえられるようになった。

 大学時代に世界チャンピオンに育ててくれた全日本の栄和人強化委員長、自衛隊の藤川健治コーチを筆頭とする女子コーチ陣、妹の真喜子、昨年10月に結婚を発表した夫(小原康司さん)、そして両親ら坂本を全面的にサポートする人たちが見守ってくれているからだ。(右写真=昨年の世界選手権で優勝し、栄委員長らから祝福される坂本)

 「自分がロンドンで優勝したら、支えてくれる人たちがどれだけ喜んでくれるんだろう。伊調(馨)選手や吉田(沙保里)選手が金メダルを獲得した場面は映像で見ている。それが自分だとしたら、すべてが報われると思いました。だからこそいまは頑張れる。それがいまの私の一番の支えですね」

■51kg級時代のタックルができるか?

 気持ち的に吹っ切れた坂本は、レスラーとして初心に戻ろうと考えた。「もともと私は51kg級で、地味なんだけど前に詰めていくレスリングをやっていた。48kg級では離れたところから飛び込むようなタックルを使うようになっていた。そうしたら、アジア大会ではカウンターをとられて負けてしまった」

 なぜ、坂本は飛び込むようなタックルを使うようになったのか。それは51kg級では味わったことのないスピードと体格の違いを感じたからだ。「一番の違いは、対戦相手がより小さくなったこと。51kg級だったら、どちらかといえば私は小さい方だったので、簡単に相手の懐に入っていくことができた。48kg級では全く逆。みんな私より小さいしスピードがある。なので、スッと入られるのが怖い。それで前に詰めるのが多少怖くなってしまった。今回はいかに怖がらずに自分のレスリングをやるかが課題になってきますね。構えからやり直しましたよ」と振り返る。(左写真=ロンド五輪へ目指し全日本合宿で練習する坂本)

 北京五輪へ向けて55kg級への挑戦。引退。そして真喜子の指導(コーチ)。51kg級で黄金時代を築き上げたあと、坂本は紆余曲折を経て復帰を果たした。今では全てがプラスになっていると前向きに捉えている。「今だからこそ48kg級に落せたと思います。もっと早い段階で55kg級に挑戦して48kg級に落していたら、長くは続かなかったでしょう。途中で気持ちが折れてしまったような気がする。いまこのタイミングでやったのが良かったんだと思う」

 アジア大会で辛酸を嘗めさせられたソ・シムヒャンが出場してくれば、リベンジを狙う。「いざ闘うことになったら、ものすごく緊張すると思いますけどね。そして、真喜子が世界選手権に出た時に優勝したアゼルバイジャンの選手(マリア・スタドニク)。あとは中国とロシア…。今回の世界選手権を乗り越えられなかったら、オリンピックは絶対ない。今回の世界選手権はオリンピックにつながっていると思って、怖がらずに、今までやってきたことの全てを出し切りたい」。


 坂本日登美(さかもと・ひとみ=自衛隊)

  1981年1月4日、青森県生まれ、30歳。青森・八戸キッズ教室出身。青森・八戸工大一高~中京女大卒。2000・01年に51kg級で世界一へ。その後、負傷などでマットを離れたが、04年にマットに戻り、05年に世界チャンピオンに復帰。06・07年の世界選手権も勝ったが、55kg級で挑んだ北京五輪には出場できず。08年の世界女子選手権51kg級で6度目の優勝を遂げて引退。約1年後に48kg級で復帰し、2010年世界選手権優勝、アジア大会銅メダル。155cm。


 ◎坂本日登美の最近の国際大会成績

 《2011年》
 【3月:ワールドカップ(フランス)】個人2位
3決戦 ○[2-0(5-0,TF6-0=1:03)]Lindsay Prickett Rushton(カナダ)
3回戦 ○[2-1(0-3=2:03,4-1,2-0)]Li Xiaomei(黎笑媚=中国)
2回戦 ○[フォール、1P0:26(F3-0)]Fathoumata Yattabare(フランス)
1回戦 ○[2-0(TF6-0=1:04,TF7-0=1:11)]Ganchimeg Chuluunbaatar(モンゴル)

-----------------------------------------

 《2010年》
 【11月:アジア大会(中国)】3位(12選手出場)
3決戦  ○[フォール、1P1:03(F4-0)]Mikhrniso Nurmatova(キルギス)
準決勝 ●[0-2(0-1,2-5)]So Sim Hyang(北朝鮮)
2回戦  ○[フォール、1P1:43(F6-3)]Zhao Shasha(趙沙沙=中国)
1回戦   BYE 

 【9月:世界選手権(ロシア)】優勝(25選手出場)
決  勝 ○[2-1(1-2,1-0,TF6-0=1:52)]Lorisa Oorzhak(ロシア)
準決勝 ○[2-0(4-0,1-0)]Iwona Nina Matkowska(ポーランド)
3回戦  ○[2-0(2-0,3-0)]Carol Hyun(カナダ)
2回戦  ○[フォール、1P1:16(F6-4)]Khrystyna Daranutsa(ウクライナ)
1回戦  ○[フォール、1P1:10(F9-0)]Ingrid Xiomara Medrano Cuellar(エルサルバドル)







JWF WRESTLERS DATABASE 日本レスリング協会 選手&大会データベース

年別ニュース一覧

サイト内検索


【報道】取材申請について
-------------

● 間違いはご指摘ください
本ホームページ上に掲載されている記録や人名に誤りがある場合は、遠慮なくご指摘ください。調査のうえ善処いたします。 記録は、一度間違うと、後世まで間違ったまま伝わります。正確な記録を残すためにも、ご協力ください。


アスリートの盗撮、写真・動画の悪用、悪質なSNSの投稿は卑劣な行為です。
BIG、totoのご購入はこちら

SPORTS PHARMACIST

JADA HOMEPAGE

フェアプレイで日本を元気に