(文・撮影=保高幸子)
全日本大学グレコローマン選手権の55kgを制したのは、世界のメダルが狙える長谷川恒平(福一漁業)と日体大でいつも手を合わせている田野倉翔太だった。
「グレコの55kgは日体大がとらなければ。名門と言われているので、そういうプレッシャーはありました」と、目に見えない敵との闘いもあったが、始まってみれば内容もよく、失点は4試合で1点のみ。1ピリオドも落とさなかった。
プレッシャーにつぶされることもなく、決勝の相手の佐藤翔太(中大)にはスタンドで腕取りからバックの1ポイントを取り、文句なしの優勝だった。「日体スタイルでどんどんスタンド攻めていけ、と言われていたので、そうやって勝てて良かったです」と安堵を見せた。
■全日本選抜選手権2位のあとつまずき、日本一への気持ちが燃え上がった
高校1年生からレスリングを始めた田野倉は、3年生のときにグレコローマンに目覚めた。「3年生の時は1年間、松本隆太郎さん(群馬ヤクルト販売=日体大OB)や藤山慎平さん(2006年学生王者=現九州共立大コーチ、日体大OB)が指導に来てくださっていて、そのときに色々教えてもらいました。初めて高校日本一になったのも、その2008年の大分国体でした。大学でもグレコローマンと決めていました」と、グレコローマンとの出合いを語る。進学後は2010年の全日本選手権に出場するも3回戦負け。しかし今年4月の全日本選抜では、2回戦で昨年全日本2位の峯村亮(神奈川大職)、準決勝で昨年学生二冠の梶雅晴(山梨学院大)を破って決勝進出。長谷川の壁は破れなかったものの、全日本レベルの大会で2位という快挙を成し遂げた。
もっとも本人は「実感がわかなくて、全日本合宿に呼ばれても、そのレベルに気持ちがついていっていませんでした」と話す。その迷いを反映するかのように、8月の全日本学生選手権では決勝で同門の中野智章に敗戦。今月初めの山口国体は2回戦で峯村にリベンジされた。
全日本選抜2位のあと敗戦続きで悔しい思いをし、「そうなってみて、やっと本気で日本一になりたいと思えました」と言う。それだけに、全日本選手権前最後となるこの大会にかける思いは強かった。
松本慎吾監督に教わった俵返しが得意だという田野倉。これからは大学の枠にとどまらず、全日本レベルでもトップを目指してほしい。