(文・撮影=増渕由気子)
地元国体に向けて“悔しいベスト16”-。来年の秋に国体を控える福井県。3月末の全国高校選抜大会(新潟市)では、北信越ブロック代表として敦賀気比(福井)が出場し、初戦の2回戦を農林(山梨)に4-3で競り勝ってベスト16に進出した。
ベスト8に残ると、大会の第2日も試合ができる。八戸工大一(青森)との3回戦は、6番手の84kg級の時点でチームスコア3-3と互角の闘い。勝負は120kg級の曽木龍太に託された。曽木は第1ピリオドを8-0と大量リードするも、第2ピリオド残り40秒に逆転フォール負け。チームのベスト8はならなかった。
時岡孝夫監督は「嫌な予感がしていました。インターハイで同じ相手に同じような試合をしているんですよね」と、詰めの甘さを指摘しながら悔しそうに振り返った。
■成年と女子の強化は順調だが、少年は厳しい状況
国体に向けて成年の強化は、全日本選手権・男子フリースタイル86kg級2位の白井勝太(日大)など順調に選手が育っている。時岡監督は「成年や女子は、選手を育てたりスカウトしたりと選手がそろいつつあります。少年の方は、選手7人を固定できてない状況です」と厳しい表情。少年は、敦賀気比を強化指定校に据えて、ここ数年は県内のキッズ選手を積極的に集めているが、思い通りにはいっていない。
県の少年の部の強化委員長は、日大出身で全日本選手権3位や全日本学生選手権2位の実績を持つ西田耕一朗コーチが務める。「西田コーチは強豪大学出身で多方面に顔がきく」と、そのつてでナショナルコーチの経験がある指導者を招いて講習会を開催したり、県外の練習会に参加したりして、成果を出している最中だ。
「西田コーチから『グレコローマンに力を入れた方がいいかもしれない』とアドバイスいただいています。フリースタイルはキッズ出身で完成度の高い選手がたくさんいますから」と、最近はグレコローマンに力を入れている高校に出げいこに行く回数も増えたそうだ。
■敦賀気比だけの強化ではなく、県全体の強化を目指す
時岡監督は福井県出身で。若狭高~中京大出身。大学では指導者がいない中で競技を続けたレスリング好き。敦賀気比に赴任し、2年目にレスリング同好会を作って現在に至っている。地道にこつこつと強化してきたが、「正直、レベルは全国最下位に近い県。国体開催が決まった時は、どうしたもんかなと思った」と焦りを感じたそうだ。
県の方針で自分の高校が強化指定高に選ばれ、有望な選手が集まるようになった。国体の後にはインターハイ開催も予定されており、数年間にわたって本格的な強化ができる。
しかし、時岡監督は敦賀気比だけの栄華を望んでいない。「一極集中すると、一時的に全国で勝てるかもしれないけれど、敦賀気比以外の高校が弱くなったり、廃部になったりして、選手の全体的な受け皿がなくなってしまうのではないかな、と。かえって福井県のレスリングが廃れてしまうかもしれない。それでいいのかなという気持ちがあります」。
あくまで福井県全体で強化し、国体やインターハイをきっかけに県全体でのレベルアップにつなげたいという考えを持っている。幸い敦賀気比は県の中央にある。「県北から県南までの高校が集まりやすい」と、高校の枠を超えて合同練習にも時岡監督は力を入れている。
■野球部が2015年に全国制覇、学ぶことは謙虚さ
敦賀気比と言えば、2015年、高校野球100年の節目の年に春の甲子園(選抜高校野球大会)で北陸勢として初めて優勝し、学力面でも3年連続で東大合格者を出すなど、文武両道に秀でた有名高だ。野球部が全国制覇をしたことは、レスリング部にとってもいい刺激になっていると言う。
時岡監督は「野球部は全国を制したのに、とても謙虚で学校内にいい雰囲気をもたらしています」。野球部に続けとレスリング部員にも気合が入る。
国体まで残り少なくなり、時岡監督はギアを切り替えて強化に取り組もうとしているが、指導に1つだけこだわりを持っている。「強ければいいというわけではない。人間的に成長するためのレスリングだと思っている。それを生徒に伝えながら強化したい」―。
あと1年半、人間的にも成長してレスリングでも結果を残す―。