(文・撮影=増渕由気子)
2020年東京オリンピックに向けて、兄弟そろって再始動だ! 愛顔(えがお)つなぐえひめ国体の成年男子フリースタイルで、61kg級の乙黒拓斗と65kg級の乙黒圭祐(ともに山梨・山梨学院大)が成年の部で兄弟優勝を飾った。
注目を集めたのは弟の拓斗だ。昨年のインターハイでは史上4人目のインターハイ3連覇を達成するも、その直後にひざの十字じん帯を断裂。約1年間、実戦から遠ざかっていた。
今年の夏ごろから本格的な練習を再開し、復帰戦に選んだのが国体だった。「(けが明けの)自分がどれくらいできるか試すために出ました」。トーナメントを見ると、全日本のトップ選手がずらりと並んだが、「復帰戦にはこれくらいがいいかな」とやりがいを感じたそうだ。
初戦は、大学の先輩で全日本選抜選手権57kg級2位の小栁和也(山梨・山梨学院大)、2回戦では2015年の57kg級全日本2位の川野陽介(宮崎・自衛隊)、3回戦はこの階級の昨年王者で2年連続学生王者の成國大志(三重・青山学院大)に、いずれも第1ピリオドでテクニカルフォール勝ち。実績十分な相手に圧倒的な強さを見せた。
結局、全5試合を無失点のテクニカルフォール勝ちで復帰戦を飾った。大学1年生でシニアの強豪が集まる国体を制したのだから驚きだ。「ダントツで勝てて、自分もいけるんだなと思ったけど、調子に乗らないように、さらに上を目指したい」。やっぱり拓斗は強い、と知らしめた試合だった。
昨年のオリンピックは病院のベットの上でテレビ観戦した。「自分はなぜ寝ているんだろう」と悔しい思いもしたが、焦らず地道にリハビリをこなして仕上げてきた。だが、練習もさまになってきた今回の国体直前に、今度は発熱で点滴を受ける毎日。「国体直前も練習ができなかった」とアクシデントがあったようだが、この結果に「休んだことがよかった」とケロリと話した。
「2020東京」に向けて、またもニューヒーローが登場した格好だが、61kg級はオリンピック実施階級ではない。オリンピックに出るには、57kg級か65kg級を選ぶ必要がある。「いろいろな人にアドバイスをいただいてるが、自分の中ではまだ決めてない。自分のベストを出せるところでやりたい」にとどめた。
65kg級に出場した兄の圭祐も抜群の内容で優勝を飾った。世界選手権代表の鴨居正和(自衛隊)は出場しなかったが、それ以外の全日本級の選手は軒並みエントリー。12月の全日本選手権に向けての前哨戦にふさわしい大会での優勝に、圭祐は「うれしかったし、勝ち抜けて自信になった」と笑顔を見せた。
刺激になったのは、弟・拓斗の存在に他ならない。「ウォーミングアップも一緒にやって、いつも通りに試合に臨めた」と精神的にも充実していた。幼少の時から兄弟で注目され、何度か同時優勝はしてきたが、国体成年というシニアの舞台で兄弟優勝を遂げたことは、2020東京に向けて大きなステップになったことだろう。
以前は61kg級を主戦場としていた乙黒の体つきは、現在では65kg級でも大きい方になってきた。「実はまだ身長が伸びていて、177センチまでになりました。65kg級も限界なので卒業を考えている」と告白。早ければ今年のうちに70kg級での挑戦を示唆した。
弟の存在以外にも、圭祐の心が充実している理由がもう一つある。高橋侑希(ALSOK=山梨学院大OB)や藤波勇飛(山梨学院大)の世界選手権でのメダリストが2人も日頃の練習環境にいるからだ。「目の前にそういう選手がいて、明確な目標になります。僕も全日本で頑張ります」と宣言。乙黒兄弟がこの冬、全日本で本格デビューを果たす!