【ビシュケク(キルギス)】シルクロードの一端キルギスで11年ぶりに開催された2018年のアジア選手権。大会最初の表彰式で日の丸が揚がり、君が代が鳴り響いた。達成したのは男子グレコローマン55kg級の田野倉翔太(東京・自由ヶ丘学園高教)。決勝では昨年の世界ジュニア選手権2位、地元キルギスの18歳の新鋭、ゾラマン・シャルシェンベコフを5-4で下した。
日本としては、昨年のアジア選手権(インド)、世界選手権(フランス)、U-23世界選手権(ポーランド)に続き、グレコローマン最軽量級での優勝を続けた。
「うれしい。相手選手の地元で勝てたのは、他の場所で勝つより厳しいから」と田野倉。決して大きな体育館ではないが、観客席はぎっしり詰まっていた。そのすべてが相手選手への応援。大会最初の決勝に地元選手が進んだとあって、会場の盛り上がりは普通ではなかった。
「アジア選手権でこんなに観客が入るところは、そうないでしょう」。会場の観客をも敵に回しての決勝の闘いは、精神的に厳しいことは当然だが、判定でもかなり影響があった。ビデオ判定が導入されている現在は、極端な地元びいき判定はないが、微妙なところでは感じられ、それが勝敗を左右しかねない。
田野倉のグラウンド攻撃を相手が脇を締めてがっちり守っても、レフェリーから「オープン」の声はかからない。がぶり返しを狙った時にかみつかれ、田野倉の右腕には歯形がくっきりとあってレフェリーにアピールしても知らんぷり。頭突きもしかり。
終盤に田野倉がタックルを受けてしまったが、明らかに脚をかけられていたという。チェアマンが白板(無効)を上げようとしていたシーンが田野倉の目に入ってきたが、レフェリー、ジャッジが「2点」だったので、上げないまま(注=このこと自体はルール通り)。
「組み合った瞬間、たいしたことはない選手と思いました。スパーリングなら簡単にテクニカルフォールできる相手です。でも、ここまで地元びいき判定をやられたら、簡単に勝てないです」。そんな“完全アウェー”の中でも勝つことができたのは、「実力ですかね」とぽつり。復帰してから日が浅く、体も気持ちも全盛期にはまだ遠いとのことだが、地力は揺らぐことはなかった。
それは準決勝までの3試合の快勝からも感じられる。本人は「59kg級だから(世界で)勝てなかった」と言われることを嫌うが、55kg級での実力は世界一を目指せるに十分なもの。「グラウンドの入り方、クラッチの組み方、スタンドで最後に攻められた時の対応」など、今回感じた課題をあと半年かけて克服していけば、「世界チャンピオンが見えてくるでしょう」という言葉が現実のものとなるだろう。
課題のもうひとつは、当日計量。昨年12月の全日本選手権でも経験しているが、シード選手がゆえに最初の試合は午後になってからだった。今回は試合開始直後の10時半が最初の試合というスケジュール。「体のリカバリーがなっていなかった」とのことで、ここで強豪と当たったらどうだったか分からない。
だが、どの選手も同じ条件のもとで試行錯誤しており、田野倉だけの試練ではない。すべての経験をプラスに変え、日本最軽量級の伝統を今秋も引き継いでほしいものだ。