個人戦を競いつつ、対抗得点で団体の大学一を争う全日本大学選手権。今年は11月10日(土)~11日(日)に大阪・東和薬品RACTAB ドーム(旧なみはやドーム)で行われ、昨年6年ぶりの優勝を遂げた拓大が連覇を目指し、2位に甘んじた山梨学院大が日本男子史上最年少の世界王者を抱えて王座奪還を目指す。
昨年の山梨学院大は3階級で優勝し、1階級で3位に入賞しながら、3階級で8位入賞を逃したため(得点0点)、対抗得点が伸びなかった。一方、拓大は大会史上初めて個人優勝なしでの団体優勝を達成。高得点を取れると見られた125kg級が0点に終わるつまずきもあったが、他の階級がまんべんなく上位進出して得点を伸ばし、山梨学院大を4.5点差で上回った。
シード制がないことで、思わぬ結果に終わることも少なくない大会。今年は、どんな“想定外”のドラマが繰り広げられるか。大学対抗得点と各階級の見どころをさぐった。(エントリーをもとにした予想であり、直前の負傷などは勘案しておりません。各階級のエントリーは順不同)
10月10日(土) 57・61・86・97・125kg級
11日(日) 65・70・74kg級
(注)得点は、優勝=12点、2位=9点、3位=6点、5位=3.5点、7位=2点、8位=1点
王座奪還を目指す山梨学院大は、最終日に行われる3階級(65・70・74kg級)に主力選手が登場する予定で、第1日でかなりのビハインドとなっても逆転できる力を持つ。65kg級は世界王者の乙黒拓斗がどんな試合を見せるか。70kg級は乙黒圭祐が世界選手権での不振を払しょくして再スタートを切りたいところ。74kg級の藤波勇飛は4連覇という個人としての目標もある。
もちろん、世界王者になったからといって国内での勝利が保証されるものではない。富山英明・日大監督は1978年世界選手権に初出場初優勝したあと、凱旋大会(全日本学生王座決定戦)では日体大選手にフォール負けを喫している。持ち上げるのはメディアとサポーターであり、周囲の選手は目の色を変えて挑んでくるのが勝負の世界だ。
ただ、乙黒拓は世界選手権で右足首を負傷しており、完治しているかどうかの問題がある。来月の全日本選手権を見据えて出場を見送る可能性もあり、その場合は副エントリーされている榊大夢の出番。JOC杯ジュニア優勝、全日本学生選手権2位と、間違いなくメダル圏内にはいるので、大幅な戦力ダウンにはならない。
とはいえ、初日で流れをつくって最終日につなげるのが勝負の鉄則だろう。初日実施の階級では、86kg級に1年生で学生王者に輝いた山田修太郎、97kg級にアジア大会カザフスタン代表のバグダウレット・アルメンタイがいて、この2階級で優勝が望める。他の3階級(57・61・125kg級)でどの程度上乗せできるか。「60点(12点×5階級)+α」の60点中盤が現実的に考えられる最高の得点となろうが…。一昨年優勝の山梨学院大が58点、昨年優勝の拓大が48.5点だったことを考えれば、50点代での攻防となり、60点近くをマークすればかなりの確率で優勝となるか。
山梨学院大以外でこの優勝ラインに近づく可能性を最も高く持つのが日体大。57kg級で国体優勝の新井陸人、61kg級で東日本学生春季新人戦優勝の山口海輝が勝ち、70kg級でも全日本選抜選手権で乙黒圭を破った基山仁太郎が勝てば3階級制覇(12点×3階級=36点)。残る5階級のうち、4階級で3位以上に進めば60点以上となり、山梨学院大を上回れる。
拓大は、125kg級の山本泰輝にかなりの確率で12点獲得が見込まれ、61・65・70・74・97kg級で2位や3位が期待できる。50点中盤の得点を積み上げる可能性は十分。日大は61、86、97、125kg級の4階級で優勝戦線に残る可能性を持つ。2階級で勝って、2階級で2位か3位、他の階級でも上位進出があれば優勝戦線に加わる可能性が出てくる。早大、専大にも優勝を狙える選手がいる。山梨学院大選手の上位進出を防げられるか。
【57kg級】=30選手 《エントリー一覧》
全日本学生選手権優勝の長谷川敏裕(日体大)は副選手としての登録。U-23世界選手権の出場を控えており、同大学からは国体で長谷川を破り、正選手に名を連ねている新井陸人の出場が予想される。9月のドミトリ・コーキン国際大会(ロシア)で5位入賞と、国際大会でも通じつつある実力を発揮できるか。
対抗は、国体決勝で新井と闘った荒木大貴(専大)か。副選手のエントリーだが、JOC杯ジュニア優勝などの成長途上で、起用されれば打倒新井の一番手となりそう。西日本学生選手権で4連覇達成の田代拓海(福岡大)が西日本選手の意地を見せられるか。
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【61kg級】=28選手 《エントリー一覧》
全日本学生選手権で1年生王者に輝いた田縁真大(日大)に、同2位の吉村拓海(早大)、同57kg級2位の山口海輝(日体大)が挑む。山口は10月の全日本大学グレコローマン選手権60kg級で、慣れないスタイルながら優勝する強さを見せた。勢いを持ち込めるか。
2年前の57kg級で優勝し、今年はこの階級の全日本学生選手権3位の井出光星(専大)、同じ3位の早山竜太郎(拓大)らが3選手による優勝争いを崩せるか。
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【65kg級】=30選手 《エントリー一覧》
世界選手権で日本史上最年少のチャンピオンに輝いた乙黒拓斗(山梨学院大)の凱旋大会。世界王者の実力を見せることができるか。
打倒乙黒を実現する候補は、一昨年王者で今年9月の世界大学選手権優勝の米澤圭(早大)、昨年優勝の中村剛士(専大)、今年のアジア・ジュニア選手権優勝の谷山拓磨(拓大)、昨年の全日本選手権3位の嶋江翔也(日体大)など。若き世界王者にどう挑むか。
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【70kg級】=31選手 《エントリー一覧》
今年の世界選手権代表の乙黒圭祐(山梨学院大)と、全日本選抜選手権で乙黒を破りながら代表決定プレーオフで敗れた基山仁太郎(日体大)が、再び覇権を争うか。基山は全日本学生選手権で1年生王者に輝き、世界ジュニア選手権出場を経験している。
全日本学生選手権決勝で基山に敗れた伊藤駿(早大)は国体74kg級で優勝。基山へのリベンジを果たしての優勝を目指す。全日本選抜選手権で伊藤を破った中村優太(専大)が、どこまで上位に食い込めるか。アジア・ジュニア選手権3位の志賀晃次郎(拓大)も力をつけており、優勝争いに加わる可能性はある。
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【74kg級】=29選手 《エントリー一覧》
世界選手権代表の藤波勇飛(山梨学院大)が3階級にわたっての4年連続優勝を目指す。過去7人が達成している4連覇だが、3階級に渡っての快挙達成となれば初。
藤波の欠場した全日本学生選手権を制した尾形颯(中大)にとっては、真価を試される大会。同2位の阿部侑太(日体大)、同3位の吉田隆起(拓大)らが藤波の偉業達成を阻止するか。グレコローマン72kg級で学生二冠を制した前田明都(専大)が、フリースタイルでどこまでやるか。
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【86kg級】=30選手 《エントリー一覧》
全日本学生選手権で1年生王者に輝いた山田修太郎(山梨学院大)に、同2位の八木海里(中大=2年生)、同79kg級優勝で国体86kg級2位の石黒隼士(日大=1年生)が挑む。石黒は世界ジュニア選手権79kg級で優勝し、国際舞台で通じる実力を披露。この階級の1年生王者の牙城を崩せるか。
全日本学生選手権3位の松雪泰成(専大)、同79kg級は2位に終わったが、世界大学選手権で銀メダルの山﨑弥十朗(早大)、東日本学生選手権優勝の錦戸祐也(日体大)らが3年生の意地を見せるか。
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【97kg級】=29選手 《エントリー一覧》
全日本学生選手権の王者(二ノ宮寛斗=明大)は125kg級にエントリー。同92kg級優勝の石黒峻士(日大)とカザフスタンのアジア大会代表でもあるバグダウレット・アルメンタイ(山梨学院大)の争いとなるか。両者は昨年も決勝で顔を合わせ、アルメンタイが4-0で勝っている。
全日本学生選手権2位のアビッド・ハルーン(日体大)、同3位で西日本学生選手権を制した宮原尚之(中京学院大)、グレコローマン学生王者の山下拓也(拓大)、全日本選抜選手権92kg級3位の内藤由良(国士舘大)らが優勝戦線に浮上してくるか。
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【125k級】=18選手 《エントリー一覧》
山本泰丈(日大)が全日本学生選手権両スタイルと全日本大学グレコローマン選手権に続く4冠王者を目指す。国体も制して勢いがあるが、いずれも世界選手権代表の山本泰輝(拓大)がいない大会。山本泰輝を破ってこそ本物の学生王者と言えよう。“山本対決”が実現するか。
全日本学生選手権97kg級優勝の二ノ宮寛斗(明大)と同3位の仲里優力(日体大)が、ともにこの階級にエントリーした。体重差を超えての殊勲はあるか。仲里は国体125kg級で2位に躍進している。