【2020年全日本選手権・特集】急成長のチームから初の全日本チャンピオン誕生、2024年パリは57kg級で挑戦…女子55kg級・櫻井つぐみ（育英大）

（文＝布施鋼治、撮影＝矢吹建夫）

育英大から初の全日本チャンピオンに輝いた櫻井つぐみ

　「今年は試合もなく、ずっと練習してきました。（ようやく開催された）全日本選手権で優勝することを目標にやってきたので、うれしい」

　2020年天皇杯全日本選手権の第１日（12月17日）に実施された女子55㎏級は、櫻井つぐみ（育英大）が優勝した。「今年1月のクリッパン国際大会（スウェーデン）に出場して以来の試合でした。1回戦はすごく緊張したけど、そのあとは緊張することなく、自分のレスリングができたと思います」

　今春、高知・高知南高校を卒業した櫻井は、群馬県高崎市にある育英大に進学した。高知から群馬へ。自分で納得したうえでの進学だった。

　「高校時代、何回か練習に行く機会があった。柳川美麿監督や木村安里コーチが細かいところまで教えてくれるので、自分のレスリングが良くなっていく実感があった」

　なぜ高知から群馬まで練習に行ったかといえば、育英大の柳川監督が築き上げた人脈があったからにほかならない。同監督は「群馬大のレスリング部は私の父が創設し、数多くの教員を輩出してきました。途中から、スカウトの役目を（日体大出身の）私が譲り受け、10年近くやってきました。櫻井の父（櫻井優史）は、群馬大に初めてスポーツ推薦制度ができたときの一期生です。私とは同い年で、学生時代はよく遊んだ仲でした」

「学生のためにすべてを注ぐ」…育英大・柳川美磨監督

　育英大は一昨年に創設されたばかりの４年生大学。「父の退職に伴い、群馬大レスリング部はなくなってしまった。そこで育英大学にレスリング部を立ち上げた」（柳川監督）。

3試合を通じて無失点。すばらしい内容の優勝だった

　昨年、男子は東日本学生リーグ戦で初出場にして二部リーグ優勝という快挙を成し遂げ、防衛大との入れ替え戦にも勝利。一部リーグ昇格を果たした。そして今年は全日本選手権で初めて女子のチャンピオンを誕生させた。

　短期間で躍進できた理由は？　「恩師の藤本英男先生（日体大元監督）の教えでもある正攻法で強気で攻めることと、学生のためにすべてを注ぐ、という教えを忠実に守りながらやっています。コロナの期間中も、コロナに負けることなく、大学にも掛け合って練習場所を探し、地道に続けてきました。リスクもあったけど、新設大学が歴史のある大学との差を埋めるためには、いい機会だったと思います」（柳川監督）

　櫻井は、育英大に進学してから同じくらいの階級に同性の選手がたくさんいたことを優勝の要因に挙げた。「高校時代は（女子は）少人数で、練習相手もそんなにいなかった。育英大では取ったり、取られたり、勝ったり負けたりの練習を繰り返し、少しずつ強くなって、全日本選手権に臨むことができたと思う」

昨年は決勝で惜敗、1年間で大きく成長

　もともと地力がなかったわけではない。昨年の全日本選手権でも、高校３年生ながら55kg級決勝を東川加奈（至学館大）と争った。この１年で、さらに成長した部分は？

今年1月、元世界チャンピオンのソフィア・マットソン（スウェーデン＝左）を破って優勝、華々しいシニア国際デビューを飾った＝チーム提供写真

　「去年はもつれた体勢や自分が弱い体勢になることが多かったので、優勝する力はなかった。でも大学生になってからは少しずつ自分の弱点を減らせたことができたと思う」

　今大会では「６分間、集中力を持たせること」「どんな状態になっても、相手の上に乗って確実に点数を取ること」という過去の課題を少しずつクリアできたことも大きい。攻撃面では、女子では珍しく細かい組み手ができる選手として注目を集める。

　「高校時代は男子と練習したり、指導者の方からグレコローマンの組み手を習ったりしていたせいですかね。その組み手で相手をしっかりと追い込むことができるのが、自分の強みだと思います」

　教育学部に在籍する櫻井は、勉強にも一生懸命。文武両刀の全日本チャンピオンは近い将来、階級をひとつ上げ、57㎏級でパリ・オリンピックを目指す。