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2021.06.28

【提言】減量方法は人によって違う、計画性をもった減量を…公認スポーツ栄養士・野﨑久美さん

 

(文=スポーツライター・矢内由美子)

 体重階級制競技であるレスリングの選手にとって、競技力の向上と並んで重要な要素となるのが体重コントロールだ。レスラーたちは大会が近づくにつれて減量に腐心しながら毎日を過ごす。どのような減量方法が正しいのか。少しでも楽に減量する方法はあるのだろうか。

トップアスリートに様々な医科学サポートと環境の提供を行うハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)の公認スポーツ栄養士・野﨑久美さんを取材した。

減量方法は選手によってさまざま

「選手は、それぞれ抱えている悩みが違うので、相談される内容はバラバラです。一人一人の悩みに答えていくのが、公認スポーツ栄養士という資格を持っている者の仕事です」

過酷な減量に警鐘を鳴らした高谷惣亮選手(関連記事=矢内由美子記者執筆)=提供;UWW(撮影;Kadir Caliskan)

 インタビューの冒頭、「正しい減量方法を知りたい」という取材の趣旨を伝えると、野﨑さんから最初に返ってきたのは「減量の方法は選手によってさまざま」という言葉だった。減量方法は一つではないということだ。

 野﨑さんが担当しているのはレスリングの全日本チームの選手。国立スポーツ科学センター(JISS)の格闘技担当の研究員が、これまで実際の試合会場におけるアンケート調査や減量のシミュレーション研究を通して得た科学的なエビデンスをもとに、栄養指導を行っている。

 減量には、体脂肪率を減少させることを目的とした「ゆっくり減量」と、試合の直前に行う「急速減量」があり、通常はそれを組み合わせて減量する。試合から逆算して1ヶ月前くらいから始めるのが「ゆっくり減量」。試合の2~3日前に行うのが「急速減量」だ。

「ゆっくり減量」では、炭水化物を抜かない

 「ゆっくり減量」の時期のセオリーは、食事のバランスを保ちつつ、脂質を減らすこと。ここで注意したいのが、炭水化物は抜かないこと。炭水化物抜きをすると、体重が目に見えて減りやすいので、ついやってしまいがちだが、「ゆっくり減量」の時期にそれをやると、最後の「急速減量」の時にもっと炭水化物の摂取量を減らしても、体重が減りにくくなる。

 「ゆっくり減量」の時期に炭水化物を適度に摂っていると、「急速減量」になった時に炭水化物を減らす効果が表れやすく、体重がストンと落ちるのだという。野﨑さんは「炭水化物は絶対に最後まで抜かないで、といつも言っています」と強調する。

「急速減量」では、過度に水分を抜かない

 「急速減量」とは、おおむね試合の2、3日前から始める最終的な体重調整を指し、発汗によって水分を抜いたり、摂取する食品の重量を軽いものにしたりする方法がある。

計量会場ではダウンしている選手もいる。これで、試合で勝てるのか?

 ここで十分に留意すべきなのは水分摂取だ。熱中症予防のガイドラインなどでも周知されているように、そもそも水を抜くことは、アスリートだけではなく人間にとって非常に危険な行為。慎重にならなくてはいけない。

 一般的には、体重の2%以上脱水すると、持久力の低下や認知機能の低下を起こすと言われており、体重の3%以上脱水すると、血液の濃度がより高くなる。このため、脱水は減量中だけでなく、夏場の暑いときなどの練習でも気をつけていなければならない。

 また、体内の水分が足りないと持久力や認知機能の低下だけでなく、有酸素運動の能力や体温の調節機能も下がるため、危険な状態になってしまう。

 ちなみに、日本レスリング協会の合宿などでは、コーチが15分から20分に1回ほど給水の時間を設けている。今やトップアスリートの現場では、こまめな給水が常識だ。

炭水化物抜きは試合直前のみで

 近年、「炭水化物抜きダイエット」が話題に上ることが多い。これはレスラーにとってふさわしい減量方法なのだろうか。ここで野﨑さんが力説するのが、炭水化物抜きはよくないということだ。

 「炭水化物は体内で分解されてグリコーゲンになります。すなわち、炭水化物を摂らなくなると、筋肉の中と肝臓のグリコーゲンがなくなり、体を動かすことがうまくいかなくなることがあります。炭水化物抜きは危険性が高いので、減量中でも炭水化物を最低これだけは摂りましょう、という指導をしています」

JISSが発行している「ウエイトコントロールブック」の活用を

 世界レスリング連盟(UWW)が計量ルールを大きく変更したのは、2016年リオデジャネイロ・オリンピックの後で、2018年からだった。30年以上続いた前日計量制から、1986年以来となる当日計量制に戻した。狙いは、過度で危険を伴う減量をやめよう、ということ。柔らかい言い方をすれば、「計画性のない減量をしないようにしましょう」ということだ。

計量時に、にっこりの笑顔があれば気持ちも上向くはず!=撮影・保高幸子

 そのためにも、まずは試合から逆算して減量の計画を立てることが重要になる。野﨑さんが紹介してくれたのが、JISSがつくっている「体重階級制競技のウエイトコントロールガイドブック」に掲載されているフローチャート。選手の身長・体重・体脂肪・試合までの日数に応じて、現時点で体重が何キロオーバーしているのか、体脂肪率が何パーセントオーバーしているのかがわかるチャートになっている。

 フローチャートに照らし合わせて計画を立てた後は実行あるのみ。推奨されるやり方は、1週間に0.5~1㎏ほど減らす「ゆっくり減量」と「急速減量」を組み合わせる方法。ただし、野﨑さんは「急速減量」よりも「ゆっくり減量」でどうやって減らしていくかに重きを置くべきだと説く。

 「現場で気をつけてもらいたいことは、繰り返しになりますが、計画性を持って減量に取り組むこと。有名選手の真似をするのもいいのですが、万人にフィットするわけではありません。減量方法や減量に関する悩みは人によって違う。いろいろなやり方がある中で、自分に合う形を自分で見つけることが大事なのではないかと思います」

 加えて、野﨑さんは「私たちのような公認スポーツ栄養士をうまく利用してほしい」と言う。公益財団法人日本スポーツ協会の公式サイトに、公認スポーツ栄養士を検索するページがある。

https://www.japan-sports.or.jp/coach/DoctorSearch/tabid75.html

 活用してみてはいかがだろうか。







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