日本レスリング協会公式サイト
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2021.07.31

「前任者の積極的な改革を見習いたい」…全国高体連レスリング専門部・原喜彦理事長に聞く(下)


(上)から続く (聞き手=布施鋼治)


多くのイラン選手が取り組んでいる同国の伝統競技ズールハーネを試みる原理事長。環境さえ整えば、ビーチ、グラップリングにも門戸を開く姿勢

――競技人口・普及の話に戻りますが、世界レスリング連盟(UWW)が認めているレスリング・スタイルに、関節技のあるレスリング、グラップリングがあります。若者は総合格闘技への関心が高い。高校レスリングでグラップリングを導入するお考えは?

原理事長 (導入は)きついですね。指導者の問題があります。指導できる人が少ない。グラップリングをやるチームが多くなり、「高体連専門部で対応してください」という声が多くなった段階で柔軟に対応する、ということになるでしょう。今は、フリースタイルで全国大会をやっており、女子とグレコローマンの普及も懸案事項。それだけで手いっぱいという状況です。(セネガル開催の2026年ユース・オリンピックで採用される)ビーチを先にやらなければならないかもしれない。

――グラップリングより、ビーチのオリンピック種目採用の方が先かもしれないですね。

原理事長 グラップリングやビーチは、各チームが自由にやってもらいたい。協会主催の大会ができて、盛んになれば、高体連専門部でやらない理由はない。専門部は、これまでにもいろんなことに柔軟に対応してきたと思います。山口香さんの考えと逆ですが、「オリンピックで勝って、世間に認めてもらって普及するんだ」ということです。山口さんの考えをすべて否定しているわけではない。もう、これだけ世間に認めてもらっているのだから、勝つこと以外に、レスリングをやったことのプラスをアピールして普及に尽力していきたいと思います。

難しい「厳しい叱責」と「パワハラ」の線引き

――レスリングに限らず、スポーツ界にパワハラ問題がいくつも起こっています。厳しい叱責とパワハラの線引きは難しい。この問題については、いかがでしょうか。

原理事長 レスリングのほか、相撲、柔道などのコンタクトスポーツは、(肉体のぶつかりによる)追い込みが必要になり、そういう練習をしなければ勝てない一面はあります。ただ、世の中でパワハラと解釈されることは認められない時代になっている。高体連でもパワハラに対して注意喚起が出ています。レスリングは競技人口が少ないこともあってか、体罰、パワハラの報告はなくなっていますが、競技人口の多い競技は、毎年、いくつも挙がっていて、指導者に資格停止処分が下ったりしています。格闘技は、難しい問題ですね。

2020年10月、レスリング界の先陣を切って大会を再開した全国高校選抜大会。徹底した感染防止対策で、陽性発生は「0」だった

――もうひと踏ん張り、というときに、どう背中を押すかですね。激励なのか、体罰・暴言なのか。

原理事長 いじめや自殺の問題で、悩んでいる生徒への最後のひと押しの言葉となるのが、(いい方でも悪い方でも)高校の先生みたいです。言葉も大きな問題になります。専門部は、日本協会の傘下連盟の中で、唯一、高体連という別組織の傘下でもあるんです。協会と高体連双方の諸注意を守り、昔とは違う、ということを意識してやっていかないとなりません。

――毎年3月末に新潟市で行われている全国高校選抜大会ですが、新潟市開催はもう終わる、という声が根強くあります。そのあたりは?

原理事長 新潟市での全国大会は、インターハイより先に開催されましたが、長く高体連は認めていなかった。30年ちょっと前でしたか、各競技で全国選抜大会を高体連主催でやるようになり、レスリングもそうなったわけです。高体連主催である以上、「持ち回りでやったらどうか」という声が当初からありました。そのときは新潟県協会が手離したくなかったわけです。今は、どの県もレスリングの先生が少なくなり、大会運営が大変な時代になっています。新潟県協会もそういう状況です。一時、「2021年の大会をもって他県にお願いしたい」となり、全国高体連専門部でも持ち回り開催が論議されました。日本協会も間に入り、「伝統ある大会だから、新潟県でもう少し続けてほしい」と要望され、再来年(2023年)までは新潟県でやることが決まっています。

――最低でも、あと2回は新潟市開催ですね。

原理事長 別の場所でやる場合は、1年前には全国高体連に大会要項ほかを提出し、承認を得ないとなりません。ですから、2年前には開催を決めてもらい、大会要項をつくって準備してもらわないとなりません。

観客席からの動画撮影に規制の必要あり

――最後に、高校レスリングの広報、こんなふうにマスコミに取り上げてほしい、という思いはありますか?

原理事長 理想は高校野球です。オリンピックや全日本選手権は派手な演出でアピールできます。高校レスリングは、高校野球と同じで派手な演出はできない。選手のひたむきさや試合の緊張感をアピールしていきたい。以前は「マスコミに扱ってほしい」だったけど、今は自分たちで発信できる。1日中、レスリングに接していたかったら、それができる時代になっています。

全国高校選抜大会で教え子の試合を見守る原氏(左端)。指導者と大会役員の双方で奮闘していた

――大会におけるネット中継などですね。

原理事長 以前は準決勝と決勝だけの配信だったのが、今は1回戦から全試合を、しかも生配信で見られるという流れになっています。これはコロナの感染防止対策の副産物かもしれないですね。観客を入れられない、高校の校長先生ですら会場に入れない、という状況になり、ではネット中継で、となったわけです。組織普及委員会という委員会が立ち上がっていますので、そこを中心に、高体連のホームページの充実、動画配信、部員の募集などに力を入れていきたい。

――ネット生中継で試合のもようが全国に流れる、ホームページの記事で扱われる、というのは、選手のやる気につながっていますでしょうか。

原理事長 それはあります。見られれば発奮するし、自分の試合は見たいでしょう。心配は、プライバシーです。専門部としての試合撮影は同意書にサインをもらっていますが、これからは撮影に関する規制を厳しくしていかないとならないかもしれません。

――どういったところですか?

原理事長 観客席からの動画撮影です。だれもが動画を自由にアップできる時代ですが、肖像権侵害とかの問題が出てきます。自分が負けて泣いているシーンをあちこちにアップされたら、嫌でしょう。このあたりに課題があります。

――スマホの発達で、だれもがカメラマンの時代ですからね。

原理事長 他競技の専門部とも話し合い、やり方を教わりたいと思います。陸上はカメラの持ち込みが一切禁止されていますし、保護者のみOK、保護者といえども撮影は禁止、という競技もあります。早急に規則をつくりたいと思います。

――高校レスリング界の発展を期待します。



1万5000人の敵に囲まれ、世界王者と激戦!…原喜彦・理事長の現役時代 

 1992年のアジア選手権は、バルセロナ・オリンピックのアジア予選を兼ねてイラン・テヘランで行われ、フリースタイルは地元のイランが48kg級以外の9階級で決勝進出を決めた。迎えた決勝戦。横浜アリーナ並みの広さのアザディ・スタジアムは、立ち見を含めて約1万5000人の観客で埋まり、イラン選手の雄姿を待っていた。

 しかし、52kg級、57kg級、62kg級と北朝鮮の若手相手に3連敗(52kg級のイラン代表は2年前の世界王者)。68kg級も韓国の軍門に下り、観客のフラストレーションはたまりにたまった。

 74kg級で登場したのが、日本フリースタイルで唯一、決勝進出を果たした原喜彦氏(オリンピック出場権は獲得済み)。相手は前年世界チャンピオンのアミール・ハデム。超満員の観客は、4連敗のうっぷんをすべてをこめて、地元の英雄に大歓声を送る。足踏みによって体育館には熱狂の地響きが起こり、建物の崩壊も懸念されるような状況。拍手と声援による空気の振動が「目に見える」と言っても過言ではない雰囲気で試合が始まった。

 海外では、相手への圧倒的な声援の下で闘う“完全アウェー”はよくあるが、現役世界王者を相手に、1万5000人の敵に囲まれての闘いを経験したのは、日本レスリング界の歴史の中で原氏だけではないか(テヘラン在住の日本人の姿はなかった)。

 試合は、世界王者の実力に加え、超満員の観客の熱狂的な声援を受けたハデムの勝利。館内の大歓声はその直後に最高潮へ。広い会場に歓喜のウェーブが何周も回り、いつまでも終わらない。日本チームのコーチの中には、鼓膜に痛みを感じて耳をふさいだ者もいたほど。そして、「こんな大声援を受けて闘えば、強くなるよ」と話した。

 「この会場で試合ができたことが、最高の経験だった」と原氏。現役引退後のレスリングの普及と人気獲得にかける気持ちは、このときの経験に基づくものだろう。超満員の会場が揺れた“あの光景”を目指した闘いが期待される。







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