【2022年インターハイ・特集】「最後の校舎」で頑張り、優勝＆最優秀選手！ 故郷に錦…男子60kg級・西内悠人（高知・高知南）

（文＝ジャーナリスト・粟野仁雄）

　「インターハイ」は全国の都道府県の高校トップクラスの選手が集う大会だ。だが、高校生アスリートにとって、汗水流した母校が永遠に存在するとは限らない。

最後の高知・高知南の選手として、故郷で錦を飾った西内悠人＝筆者撮影

　高知南高校（高知市の中高一貫の県立高）は、高知西高校とともに、2021年4月に開校した高知国際高校に統合される。南高校は、現在は3年生しかいない。来年4月から校舎は西高校を使い、南高校は校舎も残らないという。

　そんな中、同校の3年生、西内悠人が2022年インターハイ男子60kg級で見事に優勝。昨年の55kg級優勝と合わせて連覇となり、地元関係者を沸かせた。

　同チームは学校対抗戦にも出場したが、「高知南・高知国際」の形だった。個人戦では「高知南高」としての出場（ただし、公式記録は「高知南・高知国際」）。準決勝では平岡大河（神奈川・磯子工）を下し、決勝の相手は、今年3月の全国高校選抜大会で敗れた須田宝（佐賀・鳥栖工）。因縁の対決だった。

　試合は緊迫した展開となった。第１ピリオドは、西内が1－0とリード。第2ピリオド、アクティビティタイムで1点を一回ずつ取り合って西内が2－1。ラスト49秒、西内が場外ポイントを決めて3－1。さらに終了間際、須田の逆転狙いの攻撃をうまくかわしてテークダウンにつなげ、5－1で勝利した。

学校がなくなるのは寂しいが、歴史を残せた

　「まだ優勝の実感はないですけど、うれしい。地元の大会でお世話になった人たちの前で勝ててよかった。南高校として出場するのはこれが最後。本当に勝ててよかった」と感無量の様子だった。

春のリベンジを目指し、高校選抜王者に挑んだ西内＝撮影・矢吹建夫

　そして「学校がなくなるのは寂しい。でも今日、高知南高校という学校があり、高知南高校という歴史があったことを、少し覚えてもらえたかな」と、盛んに母校への思いを語り続けた。

　西内は櫻井優史監督が紹介してくれた高知大学の矢野宏光教授（スポーツ心理学等）の講習に通い、メンタルトレーニングを取り入れたという。「呼吸法とか、様々な勉強をして試合に臨みました。パッシブを取られても慌てることもなかった」

　「試合途中、まだ1分くらいかと思ったら、あっという間に3分経っていた。ゾーンというのは、これなんだなと思いました。メンタルトレーニングのおかげです。今日はメンタル面では100点でした」と、うれしそうに話した。全く無意識なままに身体が理想的に動いていることを、スポーツ科学では「ゾーン」と表現する。いわば「無我の境地」だ。

消えゆく母校への郷愁と感謝の思いを胸に、地元で花を咲かせた

　西内の口からは、二言目には「感謝」が出てくる。マニュアルっぽく口にする“言わされている”という印象のアスリートもいるが、そうではない。西内の全身に、心からの感謝がほとばしっていた。

インターハイ2階級制覇を達成し、世界へ挑む西内＝撮影・矢吹建夫

　卒業後は日体大でレスリングを続けたい希望を持っている。「今日もコーチの人が見に来てくれていました。『勝敗はいいから、伸び伸びやれ』と言われていました」。とりあえずの目標は、目前に迫ったU20世界選手権（8月15日開幕、ブルガリア）での優勝だ。

　2019年に同じブルガリアで行われた世界カデット選手権では銅メダルを取っている。U20で世界一になることも不可能ではあるまい。

　幼稚園の年長のとき、遊びのレスリングで負けて悔しがっていたら、母親が現在の櫻井監督が運営していた少年少女レスリング・クラブを見つけてくれた。以来、のめり込んだという。

　坂本龍馬を生んだ土佐の地ではぐくまれ、人と環境に恵まれた若者は、消えゆく母校への郷愁と感謝の思いを胸に、見事に地元に花を咲かせた。そして、インターハイの最優秀選手に選ばれていた。