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2022.12.13

【2022年全日本選手権にかける】2年連続学生王者にはい上がった“高校時代は一人部員の選手”が、日本一を目指す…男子グレコローマン82kg級・樋口徹心(日体大)

 8月の全日本学生選手権で2連覇を達成した男子グレコローマン82kg級の樋口徹心(日体大)は、2022年天皇杯全日本選手権を前に「今年は調子がいいので、自信を持ってマットに立てると思います」と燃えている。

 これまで、全日本選手権と全日本選抜選手権には4度出場して、いずれも初戦敗退。学生の大会とは違うステージ上での闘いは、「やはり緊張します。やる気が空回りしてしまいました」と言う。しかし、2年連続学生王者を達成し、U23とはいえ日本代表として世界大会に出場した経験は気持ちの高揚につながり、そのときの自分ではない、と言わんばかり。

▲8月の全日本学生選手権決勝で豪快ながぶり返しを爆発させた樋口。2年連続優勝を達成した=撮影・保高幸子

 10月の栃木国体では、昨年の全日本選手権と今年の明治杯全日本選抜選手権でともに2位の田中真男(奈良・天理教校学園高教)を破り、2位に食い込めたことも自信につながっている(注=82kg級は国体実施階級ではないため、87kg級での試合)。

 同級の世界選手権代表の岡嶋勇也(警視庁)が、オリンピック階級に移ることなく、この階級に出てくる情報は事前に伝わっていた。ひるむことは何もない。「倒さなければならない人ですから」と、むしろ世界選手権代表を倒して全日本王者に輝くことを望んでいるふうでもある。

高校の校長先生に認めてもらい、“一人部員”で大会に出場

 10月の全日本大学グレコローマン選手権でも優勝して学生二冠王者に輝ける実力を持っていた。しかし、同時期にスペインで行われたU23世界選手権の出場を選び、“二冠王者”の肩書を求めなかった。

 55kg級の松井謙、67kg級の曽我部京太郎、77kg級の日下尚、87kg級の白井達也、97kg級の伊藤飛未来もそう。常に高いところを目指す日体大の真骨頂と言えるが、この中で曽我部と樋口に共通するのが、高校時代、たった一人の部員という環境でレスリングに取り組んでいたこと。

▲全日本選手権での優勝を目指し、日体大で練習する樋口

 曽我部は高校時代に国体3連覇を達成する早咲き選手だったのに対し、兵庫・神港学園高にいた樋口は、全国高校選抜大会と国体の3位が最高の選手。そこから学生王者にはい上がり、全日本王者を視野に入れるまでに実力をつけた。

 小学校時代からレスリングに親しみ、中学では六甲アイランド高堀北和久監督が運営する「一心館クラブ」で活動した。進んだ高校にレスリング部がなかったため、校長先生に直談判し、六甲アイランド高で練習し、神港学園高のたった一人の部員として大会に出場していた。

 高校間は電車で40分くらい。授業が終わって向かうと練習が始まっているハンディはあったし、「別の高校に入るのは、『だれだ、こいつは?』みたいな目で見られることが多くて…」と笑う。「やりたいことをやっているんだ」という気持ちがあったので、受け流すことができた。チームはあたたかく受け入れてくれ、“外様(とざま)”という感覚はなかった。

コロナ禍の最中の地道な練習が花開いて学生王者へ

 高校2年の最後にあった全国高校選抜大会で3位に入賞したあたりから自信がつき、大学へ進んでも続ける気持ちになった。日体大ではなく、西日本の大学を考えていたというが、堀北監督から「日体大に行くべき選手だ」と言われた。同監督は「技をかける思い切りがよく、爆発力があった」ことに才能を見い出すとともに、「レスリングが好きでしたね」と、最も大事なものを持っていることに将来の飛躍を感じたと言う。

▲2018年全国高校選抜大会で3位入賞の樋口(右端)。この頃から大学でも続ける気持ちが芽生えた

 樋口は日体大に対し、かつての強豪チームにありがちな上下関係の厳しさを想像し、「怖い、というイメージがありました」と振り返る。だが、国体の前に日体大の練習に参加させてもらったところ、マットを降りたところで目に入ってきたのは、上級生と下級生が仲睦まじく接しているシーン。大学の体育会を表した「4年=神様、3年=人間、2年=奴隷、1年=ゴミ」は、はるか昔の話だった。

 実力者がそろうチームに行くことへの不安はなかったのか? 「やられるのが当たりまえ。やられる中から強くなりたいと思いました」と振り返る。ただ、練習の厳しさは想像以上。一人部員で朝練習を経験していなかったこともあり、「朝(の体力トレーニング)が本当にきつかったです。1ヶ月で8kgやせました」とか、

 それでも、「水が合っていたのでしょう」と振り返る環境の中で実力をつけ、コロナ禍を経て3年生の夏に学生王者に輝いた。「コロナのブランクの間に、体力づくりをしっかりできたことと、自分のスタイルを見つめ直せました。とてもいい時間だったと思います」と言う。

部活動の地域移行が実現すれば、最高のモデルケースになる!

 少子化と教員の長時間勤務の解消のため、現在、中学や高校の部活動をめぐるあり方が論議されていて、将来は学校単位でなく、クラブ単位で全国大会が開催される可能性がある。樋口や曽我部のように、「高校で部員は一人」という環境でレスリングを続ける選手が増えてくるわけで、そうした中でも強くなれることを2人が示したと言えよう。

▲11月末の東日本学生選手権は、「メンタルを鍛えるため」と慣れないフリースタイルに挑戦。見事に優勝した

 堀北監督は、高校にレスリング部がなくてマットを去った選手を何人も見てきた。何年も前から、中学・高校のスポーツは地域クラブが中心になると予想しており、それがゆえに他校の選手も受け入れてきた。樋口が日本一に駆け登れば、すばらしいモデルケースになる。

 樋口は「そう(モデルケース)なれば、うれしいですね」と言う。チャンピオンへの道は、強いチームへ行くことだけではない。気持ちと練習への取り組み次第であり、一人部員の高校時代を経て全日本王者を目指す樋口の活動は、多くの後進の見本となることだろう。

 「優勝して、堀北監督に賞状を見せに行きたい」。高校時代に一人部員だった選手の日本一奪取なるか-。

(撮影=保高幸子)

 

 

 

 

 







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