2022.12.29

【2022年全日本選手権・特集】グレコローマン史上最年少の全日本王者、次の目標は「最年少世界王者」…男子グレコローマン55kg級・金澤孝羽（東京・自由ヶ丘学園高）

（文＝布施鋼治）

　男子グレコローマンでは史上最年少での全日本優勝と聞き、「ビックリしています」－。

　2022年全日本選手権の男子グレコローマン55㎏級で超新星が誕生した。東京・自由ヶ丘学園高２年の金澤孝羽（こはく）だ。同高は55㎏級でアジア選手権２年連続優勝の塩谷優（拓大）、昨年の世界選手権の男子フリースタイル61㎏級で３位に輝いた長谷川敏裕（三恵海運）、昨年の全日本選手権男子グレコローマン67㎏級を制した遠藤功章（東和エンジニアリング）らを輩出しており、高校レスリングの強豪の一角を占めている。

▲高校2年生で全日本選手権を制した金澤孝羽（東京・自由ヶ丘学園高）。男子グレコローマンの最年少記録を大きく更新した＝撮影・矢吹建夫

　金澤は、シニアの大会に初出場だったが、「高校生で決勝に進出したい」と願っていた。

　「塩谷先輩が高校３年生のときに決勝まで行っているので、それを目標にしていました」

　その一方で、金澤は「もしかしたら優勝できるかも」という淡い期待を抱いていた。「松井謙選手（2021年世界選手権優勝）や優先輩がいなかったし、学生のエントリーが多かったので、少しは自分にもチャンスがあるのかなと思いました」

投げられても、最後は上になっているバランスのよさ

　尾西大河（早大）との決勝は、逆転に次ぐ逆転というデットヒートの末、8－7で制した。

　「（挑む立場の）高校生ということで、プレッシャーはなかったので、その分思い切りできてよかった」

　高校で金澤を指導し、今大会でも男子グレコローマン60㎏級で３位に入賞した田野倉翔太（同高教）は、金澤の強さについて次のように分析した。

　「金澤は絡みが強い。決勝でも出ていたけど、投げられたあとの空中でのバランス能力にも優れている。投げられたのは金澤の方なのに、最後は金澤が上になっている。そういうことができる選手なんですよ」

▲優勝し、恩師の東京・自由ヶ丘学園高の田野倉翔太監督のもとで号泣した金澤＝撮影・矢吹建夫

　さらに、グレコローマン55㎏級の事情についても言及した。「この階級は、オリンピック階級も含めて、全階級の中でシニアと高校生の筋力差や体力差が最も少ない階級だと思う。ひとつ上の60㎏級になったらフィジカルの差が出てくる。そこが、高校生が勝てる要因」

従兄弟の鈴木絢大（60kg級）に刺激されて実力アップ

　金澤のレスラーとしてのスタートは４歳のときだった。昨年まで２年連続で全日本グレコローマン60㎏級を制している従兄弟（いとこ）の鈴木絢大（レスターホールディングス）の影響が大きかったという。「もう亡くなってしまったけど、おじいちゃんは警察官で偉大な人だった。祖父や従兄弟を超えられる存在になりたい」

　日頃の練習では、世界選手権に出場した経験を持つ田野倉にもまれることで実力を蓄え、今大会で一気に開花した。金澤は「田野倉先生は強すぎるので、自分なんて相手になっていない」と謙遜するが、田野倉は「今大会で自分の背中を見せようかと思ったけど、逆に金澤に見せられてしまった」と苦笑する。

　「史上最年少は文田健一郎や太田忍もやっていない記録ですからね。本人は至って真面目で努力家。このまま上を見据えてやっていけば、間違いなく世界で活躍するレスラーになれるでしょう」