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2016.10.18

【特集】2020年東京オリンピックへ向けて…栄和人・強化本部長に聞く(下)

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■強化委員が全日本合宿だけで頑張っても、東京オリンピックでの勝利はない

 ――強化委員長は、男子グレコローマンが松本慎吾・日体大監督、男子フリースタイルが井上謙二・自衛隊コーチ、女子が笹山秀雄・自衛隊監督。望むものは?

 栄本部長 松本委員長は日体大の監督として、リオデジャネイロへフリースタイル1選手、グレコローマン2選手を送った。全日本のトップに立っても、日体大の強化もしっかりやって世界で通じる選手を育成してほしい。自衛隊は今回のオリンピックで男女とも代表を出せなかった。所属の強化こそが全日本の強化、という気持ちでやってくれることを望みたい。厳しい言い方をすれば、自分の所属でチャンピオンを出せないようでは、指導能力を問われる。

 ――多くの所属で全日本チャンピオンや2位、3位の選手が生まれ、全日本合宿にはいくつもの所属の選手が参加して競り合う、が理想でしょう。

 栄本部長 その通り。全日本の合宿に2、3の所属からしか参加しない、ではあまり意味がない。他チームの選手との練習は、身内での練習より何倍も緊張するし、疲れる。その中から実力がついていく。全日本のコーチは、まず所属を強くすることを考えてほしい。全日本コーチではなくとも、大学の指導者は自分たちも東京オリンピックへ向けて強化している、という気持ちを持って日々の練習に臨んでほしい。強化委員が全日本合宿だけで頑張っても、東京オリンピックでの勝利はない。底辺からの突き上げが必要だ。

 ――所属の強化~全日本での強化、という関係がスムーズにいくことが必要ですね。

 栄本部長 いつの時代にも、「○○はオレが育てた」という指導者がいる。冗談じゃない。多くの指導者がいて選手は育っていく。リオデジャネイロでは女子6人の代表がすべて至学館大の選手で、私の力だと言ってくれる人もいるけれど、そんなことは全く思っていない。強化委員会のメンバーがどれだけ頑張ってくれたか。福田会長をはじめ、協会の幹部がどれだけ心血を注いでくれたか。各所属で選手を育てると同時に、協会全体として世界で勝てる選手を育てている、という気持ちを忘れてはならない。

■強化委員会が一丸となるために必要なことは「報告」と「情報共有」

 ――グレコローマンは外国人コーチの招へいを、という声もある。その点はいかがか。

 栄本部長 現場からあがってくれば考える。グレコローマンの本場の技術を学びたい、という気持ちがあって当然だ。しかし、呼ぶ前にしっかりリサーチしなければならない。技術的にはすばらしいものを持っているコーチであっても、日本選手を強くするための熱意があるのか、日本選手に必要な練習方法を理解してくれるのかなど、調べなければならないことがある。単なる出稼ぎ根性のコーチでは意味がない。日本のコーチだけで責任をもってやる、というのであれば、それもいい。強化委員会の話し合いを待ちたい。

 ――1990年代の中盤、フリースタイルのコーチにセルゲイ・ベログラゾフ氏(ロシア=2度のオリンピックを含め世界V8)を呼んだ。和田貴広君を世界で通じる選手に育てた一方、完成品と言える選手が集まるソ連やロシアのナショナルチームと、日本のナショナルチームとは違うことを、最後まで理解してもらえなかった。

 栄本部長 すべてが完ぺきなコーチはいない。マイナスの部分があっても日本のコーチがそれを理解して補い、プラスの部分を吸収できれば、それもいいと思う。外国人のコーチを呼んだから、「すべて任せたよ」という姿勢では困る。外国人コーチのいいところを学び、そうでないところは日本のコーチが補う、という気持ちなら、招へいもありだろう。

 ――両スタイルを通じ、重量級で結果が出なかったのはなぜか。個人競技では開催国枠はないので、東京オリンピックの重量級のマットに日本選手が立てるのかどうか、不安が大きい。

 栄本部長 リオデジャネイロ・オリンピックの予選の結果を見る限り、本当に心配だ。荒木田進謙はアジア大会で銅メダルを取り(フリースタイルの最重量級としては9大会36年ぶりの快挙)、去年の世界選手権でも8位入賞。最近の重量級としては最高の選手だと思っていた。なぜ彼をオリンピックへ送れなかったのか。所属と全日本チームには猛省をうながしたい。重量級に関しては、全体を強化というより、見込みのある選手を徹底的に鍛える方がいいかもしれない。日本の重量級の選手は脂肪で体が大きい選手が多い。甘やかされ、食べて大きくなった選手はいらない。泣くくらいの練習をさせ、体を絞って筋肉だけの体にすることから始めたい。それに耐えられなければ、オリンピック出場はありえない。

 ――強化委員会が一丸となるために必要なことは何か?

 栄本部長 報告と情報の共有だ。本部長に就任した時から力を入れてきた。学生、ジュニア、カデットを含めて遠征の際には現地から毎日、ラインかメール、場合によっては国際電話で報告させ、強化委員の全員が情報を共有するようにしている。出場した選手全員が初戦敗退だったりすると、バツが悪くて報告しづらいだろうが、それではダメだ。報告することで悔しさを痛感し、翌日に試合があれば奮起の材料になる。日本にいるコーチも一緒になって闘うという気持ちになる。徹底させたい。私が女子に携わってから、そういうことを福田富昭会長に教わってきた、福田イズムを私が伝えていきたいと思う。

■大切なことは、選手本人が何を目標に、どれだけ頑張る気持ちになるか

 ――スポーツ庁は、2017・18年は「活動基盤確立期」で、各競技団体に均等に強化費を割り振り、その結果をもって2019年から「ラストスパート期」として勝てる競技に強化費を重点支給する、という方針を発表した。ということは、2018年世界選手権(ハンガリー)で一定の成果を出さないとならない。

 栄本部長 今回のオリンピックの結果は反映されないのかな。そうでなければ、おかしい。2018年の世界選手権で大舞台を経験させ、その時は結果が出なくとも、2020年へ向けて貴重な経験となる場合もある。4年計画で強化しているのだから、2年で結果を求めるのは、どうかな? 改善を求めたい。どうしても予算がつかないのなら仕方ない。2018年にこだわらず、2020年に勝つためのやり方をやる。まあ、登坂絵莉、川井梨紗子、土性沙羅を中心に、女子は2018年世界選手権でいい結果は出せると思う。

 ――男子が2年後に結果を出せるかどうかだ。

 栄本部長 今回メダルを取った2人がともに若いから、全体への刺激はある。

 ――いいデータではないが、オリンピックでメダルを取って次の大会にも出場した日本選手で、メダルの色をよくした選手は一人もいない。上武洋次郎さんの「金(1964年)・金(1968年)」、太田章さんの「銀(1984年)・銀(1988年)」だけが同じ色。あとは、すべてメダルの色を落としているか、メダルに手が届いていない。現役を続行しながら途中で引退した選手もいる。太田、樋口の両選手には、このデータを胸に刻み、ぜひともジンクスを破ってほしい。

 栄本部長 そうか…。オリンピックに出てメダルを取ったことで、満足してしまう面があるのかなあ。

 ――4年は長いようで短いが、やっぱり長い。気力のみならず、体重を含めた体力が4年間、続かないこともあるのでは? あるいは、研究されてしまうからか。

 栄本部長 アマチュアでもプロでも、頑張れるかどうかは、その選手の意識の持ち方だ。年俸10億円もらえるから頑張る、結果としてそういう場合もあるだろうが、そうしたニンジンをぶら下げれば頑張ってくれるものではない。本人が何を目標に、どれだけ頑張る気持ちになるかだ。体力が落ちても、意識をしっかり持てば乗り越えられる。「銀メダルを取れたのだから、これでいい」という気持ちがわずかでもあれば、ジンクス通りになるだろう。「絶対に金メダル」という気持ちを本人自身が持たない限り、ジンクスを破ることはできない。

 ――意識革命を実行し、4年間の健闘を期待します。


 







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