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2023.02.24

【歴史】十年一昔! オリンピックのレスリングを守るため、世界中が熱く燃えた2013年(前編)

 

 「十年一昔(ひとむかし)」という言葉がある。「世の中は移り変わりが激しく、10年も経つと、はるか昔のことになってしまう」という四字熟語。時代の流れの速い現在では、10年前は「大昔」という感覚かもしれない。

 今からちょうど10年前の2013年2月、世界のレスリング界に大きな衝撃が走った。「オリンピックから、レスリングが消える」―。

 国際オリンピック委員会(IOC)が、「時代に合ったスポーツをオリンピック競技として実施していく」という方針のもと、オリンピックの実施競技を入れ替えることを決め、レスリングがそのターゲットとなった。2020年大会(その時点では、東京、イスタンブール、マドリッドが候補)、さらにそれ以降の大会で、レスリングは実施されない可能性が出てきた。

 このピンチに世界のレスリング界が一致団結。半年後の9月、野球&ソフトボール、スカッシュとの闘いを勝ち抜き、存続を勝ち取った。若い選手の中には、10年前の騒動をまったく知らない選手もいるだろう。今のレスリング選手が2024年パリ大会、さらに2028年ロサンゼルス大会、2032年ブリスベン大会を目指せるのは、オリンピック競技としてのレスリングを守るため、世界中のレスリングを愛する人たちによる必死の努力があったからほかならない。

 「大昔」となった2013年の、世界レスリング界の熱き思いと行動を振り返ってみたい。


AP通信が「ビッグ・サプライズ」(大きな驚き)とスクープ

 IOCは、肥大化したオリンピックに歯止めをかけるため、1990年代から様々な改革を実行した。レスリングでは予選制が導入され、出場選手数が制限された。2005年には世界的な普及が足りないことを理由に、2008年北京大会を最後として野球とソフトボールの除外を決めた。

 この流れに沿い、2012年ロンドン大会で実施された26競技の世界的普及度、観客数、テレビ視聴者数、スポンサー収入などを分析し、2020年大会の実施競技として、1競技を入れ替えることを決定。除外された競技と、採用を目指す7競技(野球&ソフトボール、水上スキーのウエークボード、空手、スカッシュ、スポーツクライミング、ローラースポーツ、武術太極拳)の計8競技の中から、あらためて1競技を採用することを決めた。

▲IOCの実施競技の入れ替えを報じる本HP。「世界のテレビ視聴者数では真ん中より下だっただけに、ちょっぴり気になるIOC理事会だ」と結んでいる

 2013年2月12日にスイス・ローザンヌで行われたIOC理事会で、除外が決まったのは、古代オリンピアの主要競技であり、1896年の近代オリンピックの第1回大会(アテネ)から実施されているレスリング。ローザンヌに詰め掛けていた記者のだれもが予想していなかった結果。日本の某新聞の記者は「近代五種が除外という予定稿(結果を予想して、あらかじめつくっておく記事)を持ってローザンヌに向かいました」と話している。

 世界最大の通信社であるAP通信は、IOC発表の約2時間前にこのニュースをキャッチし、「ビッグ・サプライズ」との注釈をつけて世界にスクープした。

 理事会では、ジャック・ロゲ会長(ベルギー)を除く14人の理事が、除外するべく競技に投票。白羽の矢が立ったのがホッケー、テコンドー、カヌー、近代五種、レスリングの5競技。過半数に達する競技が出るまで、最小得票の1競技を外して投票を繰り返す方式で、4回の投票が行われた。4回目にレスリングが8票、近代五種とホッケーが3票ずつの結果となり、レスリングの除外が決まった。レスリングは4回の投票のすべてで、最多の投票を“キープ”していたという。

▲IOC理事会によるレスリング除外の決定の翌日、日本協会は緊急記者会見を開き、福田富昭会長が復活・存続への決意を宣言した

7競技との闘いに勝たなければ、2020年大会でレスリングは実施されない

 ここから、レスリングを守るための闘いが始まった。最終決定となるIOC総会は9月。7競技との闘いに勝たなければ、2020年大会でレスリングは実施されない。

 国際レスリング連盟(FILA=現UWW)はタイで理事会を開催し、ラファエル・マルティニティ会長(スイス)の責任を追及。投票の結果、解任を決定し、ネナド・ラロビッチ会長代行(セルビア)のもとで、あらためてレスリングを守る活動をスタートさせた。日本協会も臨時理事会を開き、署名運動などを実施してレスリングの存続を訴えることを決めた。

 人気競技とは言えないレスリングだが、超不人気競技というわけでもなく、観客やテレビ視聴者数ではレスリングより下の競技も少なくなかった。それだけに、当初は除外の理由が分からなかった。レスリング除外の決定に、多くの国のオリンピック委員会(NOC)や団体が疑問を呈した。

 フランスの国際通信社のAFPは、除外候補の選定という重要な案件を14人の理事による投票で決めることに、IOC委員の多くが怒りの声を挙げていたことを報道。古代オリンピックから実施され続けてきた数少ない競技の一つであるレスリングが除外候補となったことで、「委員はさらに反発を強め、その怒りが9月7日から10日にかけて開かれる総会で手がつけられない状態になる可能性もある」と予想した。

▲除外決定の翌月、モンゴル・ウランバートルで行われた女子ワールドカップ開会式で行われたセーブ・オリンピック・レスリングのアピール。世界のレスリング界が団結した

関連団体やIFトップも次々とレスリング支援を表明

 オリンピックに関連する団体である各国オリンピック委員会連合(ANOC)夏季オリンピック国際競技連盟連合(ASOIF)国際オリンピックアカデミー(IOA=オリンピックに関する研究・教育などを行う機関欧州オリンピック委員会(EOC)アジア・オリンピック評議会(OCA)などが、次々とIOCへレスリングのオリンピック存続を訴え、伝統競技の強みを感じさせた。

 国際スキー連盟のジャンフランコ・カスパー会長(スイス)が「最も愚かな決定だ」と発言するなど、国際競技連盟(IF)のトップや、他競技の有名選手が続々とレスリングの存続を訴えるコメントを発表。

 現在、渦中にいるロシアのプーチン大統領「レスリングはオリンピック発祥となった古代ギリシア時代から続くオリンピックの基幹となるスポーツだ」と話し、早々とレスリング支援を宣言。FILAのラロビッチ会長代行と会談し、「ロシアのスポーツ界の首脳はレスリングをオリンピック競技に存続させるために全力を尽くし、必要な支援を惜しまない」ことを伝え、IOCのロゲ会長に面会して訴える意思も示した(実現しなかったもよう)。

 米国の上院は、レスリング除外を覆すための法案を可決。日本でも、国会で超党派による「オリンピック種目からレスリングの灯を消させない議連」(野田聖子代表)が結成され、ブルガリア、ドイツ、トルコ、ナイジェリアなどでも、政府高官がレスリング支援を表明した。

▲「オリンピック種目からレスリングの灯を消させない議連」の会合で、レスリング存続を訴える野田聖子代表と吉田沙保里選手

《中編に続く》

 







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