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2014.08.21

【連載】ネバーギブアップ! 2020年、金メダル10個への挑戦(7)…日本協会強化委員長・栄和人

(日本協会強化委員長・栄和人)

前回記事(試合後にゴミ拾いをしたサッカー・サポーターに学びたい)


第7回「レスリングを支援してくれるお母さんが増えてほしい」

 全国少年少女選手権、インターハイ、全国高校生グレコローマン選手権という夏の前中半のイベントが終了しました。前回のコラムで会場のゴミ撲滅を訴えましたが、各会場とも試合後にゴミが散乱していたという報告はなく、かなり意識が高くなったようです。これを一過性のこととはぜず、「当たりまえ」というレベルにもっていってほしいと思います。

 その全国少年少女選手権の記事で、目にとまった記事がありました。郡山スポーツ少年団の代表として、また審判員として参加したi石尾(旧姓石田)雅美さんの記事です(クリック)。全国少年少女連盟は女性の参画を促進するため、この秋、女性審判を対象とした審判講習会を予定していますが、石尾さんはこれに対し、「参加する方向で考えていますが、2泊の日程だと子供もいますので…」と複雑な心境を吐露しました。

 すべてのスポーツで女性の参画を促すことは、現在の常識であり義務です。選手だけでなく、審判や大会役員、連盟理事などに女性が入ってこなければなりません。記憶に新しい昨年のレスリングのオリンピック競技からの除外勧告は、国際オリンピック委員会(IOC)の実施階級の男女差の是正や女性理事の登用という勧告に対し、国際レスリング連盟(FILA)の動きが鈍かったことも一因でした。

 全国少年少女連盟も、そうしたスポーツ界の流れに合わせて女性審判の講習会を開き、女性の参加を促しているのだと思います。しかし、子育てという壁があり、どのスポーツでも女性の参画推進がなかなか進まないのが現状のようです。

 ここでひとつの疑問が出てきました。講習会が行われる予定の味の素トレーニングセンターには、2013年に託児所が新設され、選手が練習時間中に子供を預けるシステムが整っていることです。講習会に参加しようとしている女性審判は、この事実を知っているのだろうか、と。

 味の素トレーニングセンターのスタッフに聞いたところ、託児所はスタートしたものの、対象となる選手は、まだそう多くはないとのことです。ここが満員の盛況となるには、もう少し時間が必要なのかもしれません。

■全日本柔道連盟の取り組みに学びたい

 しかし、対象が少ないからと言って、この問題を放っておいてはなりません。いずれ増えるであろう、いえ、増やしていかなければならないママさん選手やママさん役員のため、協会として取り組まねばならない問題です。「増えてきたら考えよう」ではなく、「増えるための環境を整えよう」でなければなりません。

 この点で、全日本柔道連盟は画期的なことに取り組みました。昨年11月の講道館杯全日本体重別選手権(千葉ポートアリーナ)では、コマツの協賛のもと、会場に託児所(ベビーシッターは5人)を設置しました。指導者や審判員の0歳から小学校2年までの6人の子供が預けられ、好評を得ました。そのうちの一人は「今までは試合中、子供がどこにいるのかと心配だった」と話し、託児所の設置に感謝しました。

 キッズでも、「スポーツひのまるキッズ柔道大会」では託児所が設置されているそうです。大会役員の子のみならず、子供が試合に出る前後の30分間、その弟や妹を預かるサービスを実施し、お母さんが応援に専念できる環境をつくっています。

 スポーツ界における託児所というのは、1993年に米国の女子プロゴルフ(LPGA)が早々と実現しているのです。「プロゴルファーと母親の両方の夢をかなえるため」という理念のもと、大手の食品会社のスポンサーとなって、選手がプレーしている最中に子供を預かる制度ができています。

 この制度のおかげでしょうか、米国のママさん選手は日本の4倍の数だそうです。日本のあるプロ選手は「どちらかを選択しなければならない、ではなく、どっちもあきらめずに頑張っていけるのが夢だと思います」とコメントしています。子育てとアスリートの夢の両方を追えるシステムができているのです。

■お母さんになっても、レスリングに携わり続けてほしい

 レスリングは肉体的に激しいスポーツがゆえに、出産を経ても世界を目指す選手は、そうそう生まれないかもしれません。日本では過去3人しかいないと思います(坂本涼子、山本美憂、山本聖子)。外国では2008年北京オリンピックでのイリナ・メルレニ(ウクライナ・女子48kg級)や2012年ロンドン・オリンピックのマリア・スタドニク(アゼルバイジャン・女子48kg級)などママさん選手は珍しくありません。将来は、日本でもそんな選手が続々と出てくるかもしれません。

 選手でなくとも、審判や大会役員という立場でレスリング界に携わることはできます。いえ、多くのお母さんに携わってほしいと思います。選手活動にはピリオドを打ちながら、結婚・出産を経てもレスリングに携わってくれるお母さん。レスリングの経験はなくとも、子供を通じてレスリングを知り、いつしか子供の応援者ではなくレスリングのサポーターになってくれるお母さん。私は、こうした人たちの存在も強化に必要なことだと思っています。

 オリンピックの勝利は、レスリング界全体の盛り上がりが必要です。そのためにもお母さんを中心とした女性の力が欠かせないのです。レスリングを通じて母子のきずなが深まり、女性の立場からレスリングの発展への提言が頻繁に行われるようになれば、レスリングはよりメジャーな存在となり、ワンランクアップした存在になると思います。

 FILAがオリンピック競技からの除外勧告を受け、すぐに女性理事の登用を義務化した時、黒人初のIOC委員で副会長も務めたアニタ・デフランツ氏(米国)は、本HPのビル・メイ記者の取材に、次のようなコメントを寄せています(クリック)。

 「レスリングに限らず、すべてのスポーツで(女性の登用は)正しい方向であると思います。女性に重要な役割を与えることが、レスリング、およびすべてのスポーツの本質的なことだと思います。ビジネスの社会でも男女が協力する会社が成功していて、男性だけ、女性だけ、という会社は衰退していっています」

 レスリングは男だけの世界ではありません。レスリングを愛し、情熱を傾けてくれる女性が増えてくれることを願っています。


《ネバーギブアップ! 2020年、金メダル10個への挑戦》

■第6回: 試合後にゴミ拾いをしたサッカー・サポーターに学びたい(2014年7月17日)

■第5回: 感謝の気持ちを忘れなかった教え子を、誇りに思います)(2014年6月23日)

■第4回: 天国の堀幸奈さんに、必ず世界一の感動を届けます (2014年5月26日)

■第3回: 35年前の世界ジュニア選手権でのほろ苦い思い出(2014年5月9日)

■第2回: 米国で頑張る永島聖子さんにエールを贈ります(2014年4月25日)

■第1回: 吉田栄勝さんの功績と思い出(2014年4月18日)


 







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