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2022.01.05

【新春対談(5)完】時代は変わっており、“令和の指導”が必要…富山英明会長&日本陸連・瀬古利彦副会長

 

《第1回》 《第2回》 《第3回》 《第4回》

(司会=布施鋼治 / 対談撮影=保高幸子)


「試合は全然怖くなかった」と言う富山会長、その理由は?

── 以前と比べると、スポーツサイエンスが発達し、データを重視しやすくなってきた傾向があります。ライバルの分析にも変化が出てきたのでしょうか。

瀬古 私が走っていたアナログの時代でも、中村監督は宗兄弟がどんな練習をやっているか調べ上げていた。たぶん、誰かから聞いていたんでしょうね。あと宗兄弟が駅伝に出場するとタイムが入ってくる。直後に福岡国際マラソンがあったときには、「兄の茂はこんな調子で、弟の猛はこんな感じだ」と教えてくれました。

富山 中村監督の情報収集能力はすごかったんだね。

1984年12月に出版された富山会長の著書「夢を喰う」。チャンピオンが金メダルを噛んだ最初の選手は、1988年ソウル大会でのダンカン・アームストロング(競泳)と言われているが、こちらの方が早い(ただし、表彰台はで噛んでいない)

瀬古 陸軍中野学校出身の憲兵だったんですよ。情報収集能力はすごかった。人の顔色を観て、「アイツの素性は〇〇だ」と言い当てることができる人だった。宗兄弟の顔色からも、いろいろ分かることがあったのでしょう。福田さんは?

富山 意外とアバウトだったね(笑)。

瀬古 福田会長から叩かれたことはある?

富山 そういう記憶は一切ない。

瀬古 私も、人生で叩かれたことは一回もない。

富山 そうなの? 先輩からもなかった?

瀬古 なかった。早稲田の競走部にそういう風習はなかった。

富山 僕は、高校時代は先輩にいじめられてね…。毎日モミクチャにされましたよ。寮生活だったから、夜は夜で何だかんだと。軍隊と一緒。毎日生きるか死ぬかの日。消灯時間になったら、「よかった。今日も生きていた」と胸をなで下ろしていた。でも、あとになって思ったんだけど、あれで強くなったね。

瀬古 先輩のいじめに比べたら、何でもへっちゃらだ、と(笑)。

富山 そう。試合は自分と同じ体重の選手が相手で、ルールがある。パンチやひざ蹴りは飛んでこない。試合は全然怖くないんだよ。「試合は怖い」という話も耳にするけど、自分は試合が楽しくて仕方なかった。振り返ってみれば、あれが自分の強さの原点。ただ、そうしたやり方は、今は絶対に認められないし、(会長として)認めるつもりもない。

選手と対話してチーム力をアップさせた青学大・原晋監督

瀬古 今の高校の指導者は、世代的に鉄拳を食らいながら育ってきた人が多い。でも、暴力に対する世間の目が一層厳しくなり、「どんな理由であれ、絶対に生徒を叩いたらいけない」となった。スポーツには理屈では片づけられない部分もある。叩かれた方も、その方がすっきりすることってあるんだよね。指導者と生徒の間では成立する信頼関係も、今は第三者が見ていて写真にでも収められたりしたら、責任問題に発展する。指導はやりづらくなっている。

富山 熱くなればなるほど、指導する方も気持ちは入る。そうなると、リスクを抱える。そういう理由でチームがなくなったり、指導者がクビになったりすることもあるからね。

指導も現在に合わせたやり方がある、と主張する両者

瀬古 ここ10年、私は現場で直接指導していないけど、現場に立っていたときには、まだそういうことが許されていた。今は話し合いの世界。青山学院大の駅伝の原晋監督は、選手とうまく対話しながらやっている。昔は選手が納得しなくてもやらせることができた。今は双方が納得しないといけない。

富山 声を荒らげるのではなく、淡々と説明しないといけない。そういう時代になった。

瀬古 我々も時代に合わせていく。指導する方針も一新されてしまったね。

── 指導にも深く関わってくると思いますが、最近はどのスポーツ組織も女性役員を登用する機会が増えてきました。

瀬古 陸上はまだ少ない。地方に行くと役員は男性ばかり。地方でも女性が役員になる機会を増やしていかないといけない。

富山 ガバナンスコードで4割以上は女性役員を登用することになっているけど、現場ではまだ温度差がある。日本のレスリングやボクシングの場合、女性が競技に進出してからまだ日も浅い。そういう方向にしていかないといけないけれど、無理やり女性役員を入れようとしても無理がある。

瀬古 誰でもいいから女性を登用したらいい、というわけではない。仕事に向かない人を無理やり入れても、いないのと一緒。人数合わせではダメ。地方の先生たちの中から、将来役員になれるような人材を育てていかないといけないでしょうね。

ガラス張りの競技団体を目指す、組織の枠を越えて一致団結を

── 2022年に向けての熱いエールをお願いできますか。

瀬古 富山会長は、偉大な会長のあとを継ぐ。これは結構なプレッシャーにもなるし、私から見ても大変だと思う。でもね、富山さんは性格が明るい。猪突猛進の会長になってもらいたい。カッコはつけることなく、富山色をどんどん出してほしい。

富山 去年、瀬古さんは長男の昴君が亡くなり、僕は一昨年7月に妻(幸子さん)が天国に旅立った。僕らの共通の友人は、「2人とも落ち込んでいるだろう」ということでみんな集まってくれたよね。

瀬古 ありがたいよね。

2024年の闘いの場となるフランス・パリ。陸上もレスリングも、熱き闘いが始まっている

富山 組織の枠を超えて頑張っていきたい。マスコミに対しても、僕は同じスタンスです。マスコミだってオリンピックの報道には必死に取り組んでいる。我々と兄弟分。金メダルを取ったときには、声をそろえて「よかった」と、気持ちがひとつになる関係が一番だと思う。その充実感は一生残るじゃないですか。

瀬古 私はガラス張りの陸連を目指したい。指導者も関係者も情報を共有することができるし、コミュニケーションを密にとれる。「陸連は何を考えているかわからない」「あのお金はどこに行ったんだ?」という意見が出ることはなくしたい。そういうことは絶対言われたくない。

富山 そうだよね。これからはお金の管理が重要になってくるよね。今まで以上にきちっとしていかないといけない。信頼感がなくなったら、協会というひとつの組織でやっている意味がない。

瀬古 いまの時代、コロナで企業も疲弊している。おかげで陸連の財源も結構厳しくなってきている。だから財源の強化を会長と一緒に考えていかないといけない。テレビ番組に出演することも大事。企業もスポンサーになってくれる以上、その競技の露出は重要な問題になってくる。レスリングもそういう取り組みを積極的にしていった方がいい。

富山 財源確保のために、瀬古さんにいろいろ知恵を借りないといけない。これからもよろしく頼みますよ!

《完》







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