日本レスリング協会公式サイト
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2015.10.09

【連載】ネバーギブアップ! 2020年、金メダル10個への挑戦(16)…女子の“団体7冠制覇”の原動力は地方指導者の努力と意識の高さ

(日本協会強化本部長・栄和人)

前回記事(2015年世界選手権を終えて


第16回「女子の“団体7冠制覇”の原動力は地方指導者の努力と意識の高さ」

世界選手権の団体優勝で今季のグランドスラム達成

 今年の世界選手権(米国・ラスベガス)では、女子で3個の金メダルを取り、オリンピック出場枠を5つ獲得しました。国別対抗得点は中国を押さえて3年連続の優勝です。この優勝によって、今年は「史上初」という快挙を達成しました。

 3月のワールドカップ(ロシア)に始まり、シニア、ジュニア、カデットの3部門の世界選手権とアジア選手権の国別対抗得点のすべてで優勝、すなわち団体戦で7冠を獲得したことです。

 世界カデット選手権が中断されていた間の2005年にも、実施されていた全部門で優勝しています、同選手権が復活した2011年以降、7大会制覇はありませんでした。メディアからはあまり注目されない国別対抗得点ですが、これこそが、女子の強化委員会が目指してきた目標のひとつでした。

■地方の指導者も海外へ派遣し、世界のレスリングを研究してもらう

 シニアの世界選手権やワールドカップで好成績を目指すのは当然です。そこだけに強化が集中してしまうと、若い世代が育ちません。トップに続く選手がいなくなるわけで、栄光は一過性のものとなってしまいます。

 女子がオリンピック種目となることが決まった時(2001年9月)、「外国も女子に力を入れてくる。これまでのように勝てなくなる」という懸念の声があがりました。2003年の世界ジュニア選手権(中国)では、優勝が1階級だけした。というより、3位以内がその1階級のみで、国別対抗得点は4位という成績でした。

 当時、私はシニアのコーチとして翌年のアテネ・オリンピックを目指していましたが、「このままでは駄目だ」という気持ちにさせられたことを思い出します。取り組んだのがカデット、ジュニア層の底上げで、全日本のトップ選手だけでなく若手選手を鍛えることで、時の全日本選手を刺激するとともに、数年後の全日本を支える選手を育成することでした。

 それまでにも、毎冬、中高校生を中心とした欧州遠征を実施していましたが、選手だけを派遣するのではなく、地方の指導者も派遣し、教える側に世界のレスリングを学んでもらうことを実施しました。

■世界カデット選手権やアジア・カデット選手権にも地方の指導者が帯同

 2004年以降の冬の若手選手による遠征(2004年まではフランス、2005年以降はスウェーデン)で、全日本コーチ以外の帯同コーチは下記の通りです(審判として帯同し、大会後の合宿にコーチとして参加した人を含む)。

【2004年】吉田栄勝(三重・一志ジュニア)、浜道秀人(岩手・種市高教)
【2005年】渡部弘道(千葉・松戸ジュニア)、杉田秀夫(体力づくり教室杉田道場)
【2006年】小玉美昭(千葉・小玉ジュニア)、松岡徹(静岡・沼津西高教)、織田智絵(埼玉・埼玉栄高教)
【2007年】小玉美昭(千葉・小玉ジュニア)、吉田実(静岡・沼津ク)、東谷英由(大阪・堺女高教)、大川紀江(東京・代々木ク)
【2008年】平井芳一(富山県協会)、宮原稔(富山・MIYAHARA GYM)、白井正良(福井・福井クラブ)大川紀江(東京・安部学院高コーチ)
【2009年】奥野竜司(三重・一志ジュニア)、宮原稔(富山・MIYAHARA GYM)
【2010年】奥野竜司(三重・一志ジュニア)、清水真理子(群馬・西邑楽高教)
【2011年】清水真理子(群馬・西邑楽高教)

 2012年からは世界カデット選手権や世界ジュニア選手権にも地方のコーチに同行してもらい、世界で勝つためのレスリングを全国に浸透させる努力をしています。

【2012年クリッパン】島田寿男(富山・高岡商高教)、清水真理子(群馬・西邑楽高教)、筒井昭好(石川・金沢ジュニア)
【2012年世界カデット】真田栄作(千葉・君津青葉高教)

【2013年クリッパン】矢後眞直(千葉・柏四中教)
【2013年アジア・ジュニア】乙守豊(日常活動指導者)
【2013年アジア・カデット】小柴健二(佐賀・鳥栖工高教)
【2013年世界ジュニア】奥野竜司(三重・松坂工高教)、若松正(東洋大監督)
【2013年世界カデット】成國晶子(ゴールドキッズ)

【2014年クリッパン】洞口幸太(岐阜・マイスポーツハウス)、高野謙二(茨城・鹿島学園高教)
【2014年世界カデット】洞口幸太(岐阜・マイスポーツハウス)
【2014年世界ジュニア】坂本涼子(兵庫・芦屋学園高教)
 
【2015年クリッパン】小柴健二(佐賀・鳥栖工高教)、増田莊史(香川・多度津工高教)
【2015年アジア・カデット】箕浦健太(三重・久居高)    
【2015年世界ジュニア】吉田栄利(三重・一志ジュニア教室)
【2015年世界カデット】柴田寛(周南市役所)

 大会参加や数日間の合宿で世界のレスリングのすべてを知ることは不可能ですが、一端であっても肌で感じることと、知らないまま国内基準で指導を続けるのとでは、大きな違いとなることは言うまでもありません。

毎冬、スウェーデンで行われている合同合宿。

■世界一の日本女子だが、日本選手を目標とする練習だけでは足りない

 日本が世界のトップなので、全日本チームの練習に接することで世界基準のレスリングに接しているのは事実ですが、外国がどんなレスリングをやっているかを常に感じなければなりません。また、骨格やパワーが違う欧米選手相手に勝つには、日本のトップ選手を目標とする練習だけでは足りません。

 本稿の第12回「女子ワールドカップ優勝で感じたキッズ指導者の重要性」でも書きましたが、強化に必要なことは、ベースの部分でしっかりとした技術や体力づくりを指導し、モチベーションを与えてくれる指導者の存在です。

 全国の少年少女クラブや高校レスリング部の指導者の手腕が、レスリング王国確立のために欠かせません。地方の指導者に世界基準のレスリングに接してもらい、それを広めてくれたことが、今年の団体戦7冠の原動力だったと思います。この場を借りて、深い感謝の気持ちを伝えたいと思います。

 同時に、今後も世界のレスリングを研究し、世界で通用する選手の育成をお願いしたいと思います。今以上に多くの方に世界のレスリングを経験してほしいのですが、仕事を持っている関係上、1週間以上もあけることのできない人も少なくありません。「生徒の帯同」ということで仕事扱いにしてもらえる教員に偏りができてしまうことはやむをえないことですが、地方の指導者に世界のレスリングを肌で感じてもらえる方向性は続けたいと思っています。

 皆さんの努力と意識の高さとが、私たち全日本チームを支えています。


栄和人強化本部長・略歴

 

《ネバーギブアップ! 2020年、金メダル10個への挑戦》

■第15回: 2015年世界選手権を終えて(2015年10月5日)

■第14回: 今を全力で生きれば、必ず勝利の女神がほほ笑む(2015年7月22日)

■第13回: 負けた時こそ、“負けることを恐れない勇気”が必要(2015年5月3日)

■第12回: 女子ワールドカップ優勝で感じたキッズ指導者の重要性(2015年3月17日)

■第11回: 米満達弘選手に感謝するとともに、必ず伝統を引き継ぎます (2015年2月13日)

■第10回: 人生は、ネバーギブアップ! 挑戦する気持ちを忘れずに (2015年1月1日)

■第9回: 審判の真剣さとき然さが、日本レスリング界を支える (2014年11月20日)

■第8回: 新たな応援のスタイルを生み出したネット中継 (2014年10月10日)

■第7回: レスリングを支援してくれるお母さんが増えてほしい (2014年8月17日)

■第6回: 試合後にゴミ拾いをしたサッカー・サポーターに学びたい (2014年7月17日)

■第5回: 感謝の気持ちを忘れなかった教え子を、誇りに思います (2014年6月23日)

■第4回: 天国の堀幸奈さんに、必ず世界一の感動を届けます  (2014年5月26日)

■第3回: 35年前の世界ジュニア選手権でのほろ苦い思い出 (2014年5月9日)

■第2回: 米国で頑張る永島聖子さんにエールを贈ります (2014年4月25日)

■第1回: 吉田栄勝さんの功績と思い出 (2014年4月18日)


 

 







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