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2020.09.19

【担当記者が見たレスリング(20)完】時代の流れをつかむ力を忘れないで…竹園隆浩(朝日新聞)


本連載は今回をもって終了します。貴重なご意見・提案、ありがとうございました。

(文=朝日新聞・竹園隆浩)

 初めて仕事でレスリングにお世話になったのは、もう30年以上も前のことだ。1987年。入社2年目で右も左も分からなかった私は、ある日デスクから呼び出され、指令を受けた。

 「レスリングで女子の競技化が始まるらしい。今は国内にはまだ選手が少ないので、女子プロレスの志願者を集めて教えているようだ。取材してこい」

1987年の第1回世界女子選手権(ノルウェー)に参加した日本チーム。後列左端が、福田富昭・現協会会長=日本協会80年史より(提供・吉村祥子)

 「オリンピックに強い」の合言葉でオリンピックのたびに注目を集めた男子と違い、女子はその2年前にようやく協会内に組織が出来た頃だった。高校レベルで言えば、部活をやっていたのは国内で東京・城西大付城西高、茨城・茎崎高、栃木・馬頭高など数校。ほかは個人道場やクラブに所属する選手が細々と練習していた。

 一方、女子プロレスはと言えば黄金期。マッハ文朱やビューティ・ペアなどを経てクラッシュ・ギャルズが全盛だった。リングでは歌も歌ってアイドル並みの人気。毎年10人足らずの公募に約2500人が集まっていた。

 そのオーディション希望者や、再受験を目指す10代の少女たちに、レスリングの基礎を教える。女の子でアマレスという土壌のない時代に、何とか選手層を厚くしたいという苦肉の策だった。

 書かせてもらった記事の中で、現在の福田富昭・日本協会会長が当時は副理事長として、狙いを明かしている。「女子選手のほとんどがプロレス志望ということは分かっている。だが、そこで競い合い、アマのレベルが上がっているのも事実。それに、プロ志望者の中からも何人か、メダルを目指してアマに残ってくれると思う」

 足繁く通ったのは、日本レスリング界が金メダル5個を獲得した64年東京オリンピックの選手村跡地でもあった代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターだった。そこで、将来の女子のオリンピック入りに向けての使命を背負った男子コーチが、体当たりで少女たちに体作りや柔軟、ブリッジなどの基礎練習から教えていた。中にはすでに男子並みに鋭く動ける選手もいたが、ついて行けずに泣き出す選手も。文字通り、手取り、足取り、育てていた。

女子レスリング隆盛の原点はマイナー時代の指導者の熱意

 その成果を試すように、この年の6月、国内初の全国大会として第1回女子レスリング・オープントーナメントが開催された。「日本レスリングの父」と呼ばれる故八田一朗氏が設立した今はない東京・新宿のスポーツ会館での大会には、10階級にプロレス関係者16人(注=当時はプロアマ規定があり、いずれも練習生)を含む中学生以上76人が参加した。その時は、プロレス勢が重量級の2階級など3階級を制した。

女子レスリングの初期を支えた選手達。中央が木名瀬重夫コーチ=同

 他の優勝者の中から吉村祥子、飯島晶子、坂本涼子の世界王者が生まれる。2位だった清水美弥子も、吉村とともに1989年に日本勢初の世界チャンピオンに駆け上がった。中学生で3位だった山本美憂は、4年後の1991年に世界選手権(東京)で初優勝した。

 その後の女子選手の活躍は、このリレー連載でも多くの方が書き記してくれた。今やオリンピックのメダル争いで言えば、男子よりはるかに可能性の高いところにある。だが、全ては、あの時代に少女たちと向き合った指導者らの汗と熱意から始まった。その事実は心に留めておきたいと思っている。

 私の取材はと言えば、女子から始まったが、若い頃は照れくささもあり、直接選手にはなかなか接せられなかった。いろいろと話を聞かせてくれたのは、ほとんどが男性だ。青少年総合センターでは男子の練習もよくやっていて、そこで知り合った指導者や選手、OBが多かった。

 これまで他の記者も触れられているが、私にとってもレスリング界は「開かれた世界」。練習中のマットの周りや試合会場、夜の宴席でも、見た目がごつく、口調がきつい方でも、質問には逃げずに答えてくれた。

スポーツ界に新しい時代が来る!

 「有言実行」。ビックマウスと言われようとも、自分から高い目標を設定し、それを実現するために努力する姿勢もレスリング関係者からは多く感じた。特に1988年のソウル・オリンピック以降は強化関係者を中心に、オリンピック、世界選手権の王者やメダリストら、いろんな方に話を聞いた。

 それを記事にまとめられない当方の力不足も理解した上で、応対して頂いた方々には、若手に担当を任せる今でもお世話になっている。

2016年リオデジャネイロ・オリンピックで好成績を挙げた日本チーム。次世代へどうつなげるか=2016年8月、東京・明治記念館

 近年、残念なことにスポーツ界で横行する「パワハラ」などの不祥事がレスリング界でも増えた。派閥争いや意見の食い違いは、もちろん昔からあった。だが、個人的な見解で言えば、今の協会幹部や指導者にすれば、自らが選手や弱い立場だった時に、上から押しつけられてきた内容と照らし合わせれば、それは当然か、軽い程度と思っているようだ。

 だから、本人たちには押しつけている感覚はないのだと思う。しかし、現代は受け手が策略的な意図なしに「ハラスメント」と感じる場合は、ほぼそのまま認定される。残念ながら、その認識が薄いように思えてならない。

 一度は延期された来年の東京オリンピックは、依然、見通しが立たない。だが、このコロナ禍の後にはオリンピックが開催されようとも、中止になろうとも、スポーツ界にも新しい時代が来るのは間違いない。その中でレスリング界がどう生き残り、新しい種から芽吹いていくか。

 オリンピックは個々の選手には目標の頂点であっても、競技団体にとっては毎回、通過点でしかない。選手の育成、競技メジャー化への尽力、組織としての不祥事への対応。度重なるルール変更にも、常に柔軟に対応してきたレスリング界には、時代の流れをつかむ懐の深さがあったはずだ。「開かれた世界」というイメージが、幻想にならぬように願っている。

竹園隆浩(たけぞの・たかひろ)1963年、鹿児島県奄美大島生まれ。明大卒。1986年に朝日新聞社入社。前橋、福島、仙台での地方勤務を挟みながら東京、大阪、福岡、名古屋の4本社でスポーツ部に所属。レスリング以外では、主に大相撲や柔道などの格闘技を長年担当している。オリンピックは1996年アトランタ大会と2000年シドニー大会を現地で取材した。

担当記者が見たレスリング

■9月12日: 連勝ストップの吉田沙保里に、「自分から攻めたんか? ならいい」と父・栄勝さん…寺西雅広(中日新聞)
■9月5日: いつの日か、ヘビー級で日本人世界王者が誕生してほしい!…渋谷淳(スポーツライター)
■8月29日: 女子最強軍団の強さの根源は「マナーの向上」だった!…来住哲司(毎日新聞)
■8月22日: スイミングクラブや体操教室ぐらい身近な競技に!…金島淑華(朝日新聞)
■8月15日:台頭する都市型スポーツ! レスリングの危機は去っていない…船原勝英(元共同通信)
■8月8日: マイナーからメジャーへ変貌! 選手はもっと主張していい…山口大介(日本経済新聞)
■8月1日:今はオンライン取材だが、いつの日か発信力を取り戻してほしい…牧慈(サンケイスポーツ)
■7月25日:IOCに「認められる」のではなく、「認めさせる」の姿勢と誇りを…森田景史(産経新聞)
■7月19日:弱さを露わにした吉田沙保里、素直な感情と言葉の宝庫だったレスリング界…首藤昌史(スポーツニッポン)
■7月11日:敗者の気持ちを知り、一回り大きくなった吉田沙保里…高橋広史(中日新聞)
■7月4日: “人と向き合う”からこそ感じられた取材空間、選手との距離を縮めた…菅家大輔(日刊スポーツ・元記者)
■6月27日: パリは燃えているか? 歓喜のアニマル浜口さんが夜空に絶叫した夜…高木圭介(元東京スポーツ)
■6月20日: 父と娘の感動の肩車! 朝刊スポーツ4紙の一面を飾った名シーンの裏側…高木圭介(元東京スポーツ)
■6月13日: レスリングは「奇抜さ」の宝庫、他競技では見られない発想を…渡辺学(東京スポーツ)
■6月5日: レスラーの強さは「フィジカル」と「負けず嫌い」、もっと冒険していい…森本任(共同通信)
■5月30日: 減量より筋力アップ! 格闘技の本質は“強さの追求”だ…波多江航(読売新聞)
■5月23日: 男子復活に必要なものは、1988年ソウル大会の“あの熱さ”…久浦真一(スポーツ報知)
■5月16日: 語学を勉強し、人脈をつくり、国際感覚のある人材の育成を期待…柴田真宏(元朝日新聞)
■5月9日: もっと増やせないか、「フォール勝ち」…粟野仁雄(ジャーナリスト)
■5月2日: 閉会式で見たい、困難を乗り越えた選手の満面の笑みを!…矢内由美子(フリーライター)







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